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2017年9月24日

原発事故に関する客観的データと、人間の「ご都合主義」

言うまでもないことだが、客観的な調査結果をまとめた「データ」というものに「善悪」はない。ある意図のもとに歪曲されたものでない限り、そこには「善い」も「悪い」もない。そこに「善悪」の区別をくっつけるのは、受け取る人間の方の都合だ。都合のいいデータなら「善いデータ」として 大喜びで使いまくり、都合が悪いと「悪いデータ」として感情的にケチを付けるか、無視するかのどちらかになる。

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最近、保守系の少なからぬサイトが「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題 〜現在の科学的知見を福島で生かすために〜」という日本学術会議の出した報告書について、盛んに触れている。発端の一つとなったのは、決して保守系というわけではないが、9月 21日付の J cast ニュースかもしれない。そこには次のように書かれている。

放射線の専門家が名を連ねた報告書では、被ばく量は 1986年のチェルノブイリ原発事故より 「はるかに低い」、また心配される胎児への影響はないとされた。一方で、大手マスコミのほとんどが報じていない事実に東洋大学の坂村健教授が 2017年 9月 21日、苦言を呈した。

坂上氏は、これほど客観的にまとめられた学術報告を、多くのマスコミがほとんど取り上げず、「甲状腺ガンが異常発生」などの不確かな情報のみが一人歩きしている状況に、毎日新聞紙上で懸念を覚えられたのだろう(参照)。次のように述べておられる。

「一部の専門家といわれる人に、いまだに『フクシマ』などという差別的な表記とともに、単に感覚にすぎない『理論』で不安をあおる人がいるが、そういう説はもはや単なる『デマ』として切って捨てるべき段階に来ている」

坂上氏としては、「ガンの増加や胎児への影響」といった「デマ」で、人々に不要な不安を植え付けるのは間違っているという、学者として当然の態度表明をされたのだろう。

しかし一部に、この報告書の内容と坂上氏の指摘を過大に解釈する向きもある。「学者は『原発事故では人体被害がなかった』と言っているのに、原発反対派はそれを意図的に無視し、『原発は危険』という科学的根拠のないデマで不安を煽っている」と言わんばかりの人もいるのだ。

これもまた、客観的なデータを「自分の都合」で解釈する誤りをおかしている点で、原発反対派が報告書を無視しているのと同じぐらいの誤りと言うほかない。問題の報告書はあくまでも「福島の原発事故」という個別のケースについて言及したもので、「いつどこで原発事故がおきても、胎児への影響なんか発生しない」と結論付けたものではない。

さらに言えば、実際に起きてしまった原発事故の後始末はかくまで難航を極めているが、原発賛成派はこのまぎれもない事実についてはほとんど触れない。原発反対派が件の報告書をあまり論じないのと、ベクトルは正反対だが、本質的にそれほど変わらない「ご都合主義のスタンス」である。

私自身は「反原発」の立場を鮮明にしているが、「福島で甲状腺ガンが多発している」なんてことは一度も言ったことがない。だって、私はその方面では門外漢だし、それを立証する確かなデータもないんだから、そんなことは怖くて言えない。

しかし事故から 2年後の 2013年 3月 13日の当ブログで、「福島で健康被害が出る恐れは極めて小さい」という WHO の報告書や、環境省からの「子供の甲状腺調査結果でも福島県で他県と比べて異常な結果は出ていない」という報告に関連して、次のように書いている。

原発推進派の中には、「こんな事故が起きても、健康被害なんてなかったんだから、原発はそんなに危険なものじゃない」なんて言いたそうな人もいるように見受けられるが、それは乱暴すぎる。だって、一番危ない地域には、今は人が住んでいないのだから、その地域のデータは存在しないのである。

これは、この記事を書いた時点からさらに 4年経った今でも、変わらず主張したいことである。一番危ない地域で被ばくし続けたというケースのデータはないのだから、『原発は危険じゃない』という言い方は、それこそが危なすぎる」のだ。

つまり、「原発事故に関するデマで不安を煽るのは間違いだが、だからと言って楽観的すぎる見解も、同様に間違いである」というごく当然のことを確認しなければならない。そして一番確かで、重く見なければならないのは、事故ってしまった福島の原発では、今でも出口の見当たらない処理作業が継続していて、この危険な作業に莫大なコストと労力が投下されているという、紛れもない事実である。

【追記】

坂上氏は 「いまだに『フクシマ』などという差別的な表記とともに......」 と書かれているが、私個人は「フクシマ」という表記が差別的とは認識していないことを付け加えておく。福島の原発事故が「国際的イシュー」であることを強調する意味で、カタカナ表記にする意味はあると思っている。

 

 

 

 

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コメント

「アンダーコントロール」
はっきりしないうちに、選挙で大騒ぎ。

都合よくなさそうなので、原発の話はしない。
よくコントロールできているなぁ。

投稿: 乙痴庵 | 2017年9月25日 15:28

乙痴庵 さん:

オリンピック招致の演説では、原発に関して "completely under control" (完全に統御されている)なんて、臆面もなく言った人ですからね。

投稿: tak | 2017年9月25日 20:04

私の考えはtakさんとほぼ同じなのですが、数か月前のこと。
ある原発関連のyahooニュースのコメント欄に書き込んだところ、本文にある ”『フクシマ』 などという差別的な表記とともに、単に感覚にすぎない 『理論』 で不安をあおる人” と散々にやりあってしまった苦い経験があります。
私含め数人でコメントの応酬が1000件以上続いたと思います。
もう、完全に大人げないと自覚していたのですが、後にも先にもこれ1回限りなのでご容赦を。
相手のHNは「福島の小児甲状腺癌多問題を放置するな安倍」という名前。
もう今は別のHNでしょうから時効だと思います。
そういう形で主義主張を流すなんてワザもあるんだなと初めて知りました。

takさんのように理性的に情報を発信する力を持っている方は尊敬します。
これからもブログを楽しく読ませて頂きます。

オチ
余りに名前が長いので、ある時点から私が彼のことを「安倍さん」と書くようにしたら相当嫌がっていました(笑)。
自分でつけたHNですし、見事なブーメラン、というやつでしょうか。

投稿: らむね | 2017年9月25日 20:48

件の報告書を実際に読むと、坂村氏の解釈もずいぶん恣意的だという指摘もありました。って、私自身が報告書を読んだわけではないので、これも伝聞に過ぎませんが。

真面目な話はさておき、らむねさんのコメントの最後のオチに笑いました。

投稿: 山辺響 | 2017年9月26日 10:35

らむね さん:

最後のオチが秀逸ですね (^o^)

投稿: tak | 2017年9月26日 17:55

山辺響 さん:

私も、報告書の全文をくまなく読んだわけじゃないのですが、まあ、「楽観的すぎ」 というほどのことはないようです。

投稿: tak | 2017年9月26日 17:56

消費税10%にするから、教育負担の軽減と原発廃炉に使います!

これぐらい言えば、中露半端な脱原発を主張してコケることなかったのに。
福島じゃなくても、廃炉にするにしても、訳わからん時間とお金がかかるんですよね。稼働40年廃炉作業40年、作るところから入れたら決めた人の無責任は誹りを逃れられないよ。

もっとも、消費税増税に関しては仕方がないとは思ってますが、いっとき話題に議論になりかけた「食料品日用品新聞等」の非課税のことは、無かったことになってるんですねぇ。

投稿: 乙痴庵 | 2017年10月14日 10:57

乙痴庵 さん:

消費税増税に関しては、「よくまあ、そんなにコロコロ言うこと変えるなあ」 と感心してしまいますわ。

ですから、何を言われても信用していません。

投稿: tak | 2017年10月14日 20:31

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