ブレインストーミングは、役に立たない
「知識連鎖」 というサイトに、「ブレインストーミングは満足感だけで意味はない 集合知と矛盾?」 という記事がある。内容は「満足感はあり、むしろすごく楽しいものではあるものの、成果というものを冷静に見てみると、全然ダメという話」だ。
これ、「我が意を得たり!」と言いたくなる記事だ。実際のところ私もブレストは何十回もやったが、役に立ったことは 1度もない。単に大判のケント紙が付箋の山で埋まり、3日経てば忘れ去られてしまうだけの行為に、どうしてあんなに力を注ぎたがるのかわからない。
私は初め、「ブレインストーミングを役に立てられないのは、やり方がまずいか、あるいは単に、こなし方に慣れていないからだろう」と、希望的に考えていた。30歳になる前のことだから、もう 35年も前のことである。あれからこっち、いろいろなケースで経験したが、さんざん盛り上がりはするものの、すべてその場限りである。
ホワイトボードや大きなケント紙を埋めた付箋を、落ち着いてから改めて眺めてみると、ほとんどは当たり前すぎて改めて言う必要もないことと、愚にもつかない戯れ言ばかりである。「こんなどうでもいいことを、よくも堂々と言えたものだ」と思うが、それは「一見下らなそうな考えも歓迎」だの「質より量を重視する」だの「他人のアイデアを批判しない」だの「結論を出さない」だのいう独特のルールのおかげだ。
そんなわけで、ブレストをやっている時間のほとんどは、他愛もない寝言を述べ合い、それをわざわざ付箋に書き出し、「これとこれとは関係がある」なんて言いながら、どうでもいいアイデアをいろいろな塊にまとめ、そんなことをしているうちに、本質的な目的をどんどん忘れて「何かテキトーなことを言いさえすればいい」という雰囲気に傾いていく。
もしかしたら 100 の戯れ言の中にいいアイデアが 1つや 2つはあるかもしれないが、たとえあったとしても、残り 90以上のガラクタに埋没してしまう。翌日には、「あれは一体、何だったんだろう?」ということになり、付箋のどっさり貼られた大判ケント紙は、倉庫の片隅に積まれ、1年間は辛うじて保管されるが、翌年末の大掃除でこっそり捨てられてしまう。
冒頭に紹介した記事は "ブレストは「やった感」以外に意味がない理由" という Diamond Online の記事にリンクしており、そのリンク先には次のような記述がある。Google でチーム・プロセスの改善に取り組んだジェイク・ナップという人の指摘である。
僕は経験上、集団でブレーンストーミングするのではなく、各自がじっくり問題に取り組んだ方がより良い結果が得られることを知っている。
グーグルで何度もワークショップをしたときも、成功したアイデアは、どれもブレストから生まれたものじゃなかった。最良のアイデアは、机に向かっているときやシャワーを浴びているとき、一人で考えたときにこそ生まれていた。その場で考えるのでは、時間が足りなくて深く考えられないのかもしれない。
ブレストで出たアイデアよりも個人で生むアイデアのほうが質が高く独創性に富んでいるということは多くの研究からもはっきりしている。
落ち着いて考えてみれば、「そりゃ、そうだよね」としか言いようがない話ではないか。ブレストにメリットがあるとしたら、参加者が「自分は誰からも押しつけられたわけじゃなく、主体的な話し合いを通じて業務改善に取り組んだのだ」と思い込むことができるということしかないだろう。
ということは、ある種の「ガス抜き効果」(あるいは 「ガス充填効果」か?)のようなものはあるかもしれないので、ブレストで「いい気分」になりさえすれば、それでいい。その雰囲気だけを大事にして、内容なんて忘れ去ってしまえばいいのである。忘れ去ってしまわないと、いつまで経っても「あれは一体、何だったんだろう」と忸怩たる思いにとらわれるからね。
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コメント
ブレスト前に資料映像としてビデオを見せておいて、誘導に乗った発言を必死でまとめた結果は、まんまと予定調和に落ち着くという研修を何度も受けさせられました。
天邪鬼な私は見え見えの誘導から外れるような意見ばかり記入してささやかな抵抗を試みていましたが、
> 「自分は誰からも押しつけられたわけじゃなく、主体的な話し合いを通じて業務改善に取り組んだのだ」
と思い込ませるのが目的だと言われて納得しました。
投稿: ちくりん | 2017年9月28日 15:11
ちくりん さん:
へえ、そういうやり方もあるんですね。
まさに 「雰囲気のもの」 としか言いようがないですね。
投稿: tak | 2017年9月29日 00:20