川魚の「泥臭さ」って何だ?
私は東北日本海側の港町、酒田で生まれたので、子どもの頃からおいしい魚を食べつけている。土地柄からしてもちろん、海魚がほとんどだが、たまに川魚も食べる。
清流沿いの土地などで「鮎の塩焼き」なんてのを食べると、本当においしい。ところが中には「川魚は泥臭いから食わない」と言って箸を付けない人がいる。しかし一体どんな風味を指して「泥臭い」なんていうのか、私にはずっと不可思議そのものだった。
あまりのことに最近、「川魚/泥臭い」の 2語でググってみたところ、泥臭さの正体には大別して「鯉の血なまぐささ」「内臓の臭さ」「河川のヘドロの臭さ」 という 3つの説があるとわかった。
まず、「鯉の血なまぐささ説」である。merlin WEIN というブログの 「川魚は泥臭い?」という記事(参照)からちょっと引用してみよう。
「川魚(淡水魚)が泥臭いというイメージは鯉からきてるんだよ。」
鯉を料理する際に血抜きをしっかりしないと血なまぐささが残るので
それが川魚全体に泥臭いというイメージが着 (ママ) いたようです。
2番目に挙げられるのは「内臓の苦み」を「泥臭い」としているという説である(参照)。Yahoo 知恵袋から引用してみよう。
雑魚と呼ばれる小さな川魚 (ハゼ科やコイ科の魚の小さい種類や小さいもの) を内蔵など取り除かずに丸ごと天ぷらやから揚げ等にして食べる習慣があるからです。
さらに魚の生育環境によるという説もある。上記の Yahoo 知恵袋の解答でも少し触れられていが、今度は "POKEBRAS コラム" というサイトの記事から引用してみよう。(参照)
日本の平野部にある湖沼、河川の中下流にはヘドロが溜まっています。そういう場所にいるコイやフナも泥臭がします。対して清流や渓流のように水質のよいところにいるアユ、山女魚 (やまめ) や岩魚 (いわな) などが旨い魚であることには定評があります。
しかしこの 3種の説にしても、血や内臓は川魚に限った話ではないし、日本中の河川のヘドロが問題になるずっと前から「川魚は泥臭い」と言われていたことから考えると、どの説も今イチの感がある。
ちなみに同じ種類の海魚でも、湾の奥で獲れたものは「泥臭くて食えたものではない」と、よく言われる。それが本当なら干潟に棲むムツゴロウなんて泥臭さの極みということになるが、「えん食べ」というサイトの記事によると、「ちょっと小骨が多くて食べにくいですがクセなどはない」ということのようだ(参照)。
日本人の意識の中には「海魚が上位で川魚は下位」という「序列」が固定観念として形成されているような気がする。潜在意識として「いいとこ取り」しようとすると、海か海辺になっちゃうようなのだ。山家育ちより、湘南ボーイの方がカッコいいと思われてしまうようなものである。
古事記に出てくる「海幸彦・山幸彦」の物語も、弟の「山幸彦」の「山」というのは結局は名ばかりである。兄の海幸彦の釣り針を借りて失ってしまってからというもの、「山幸彦」なのに、なぜか海の神であるワダツミノカミに愛でられ、その娘の豊玉姫と結婚する。そして生まれた子の孫が神武天皇となる。
元々は「山の系譜」(もっと言えば、その先は「高天原の系譜」だし)なのに、不思議にも海において新生するのだ。このあたりはフォークロアの視点で検証し直さなければならないだろう。
というわけで話が膨大な方にずれかかったが、私としては「川魚の泥臭さ」という固定観念に関しては、要するに「気のせい」と「好き嫌い」の合わせ技ということで片付けたいと思う。私がよく使う言い方だと、単に「雰囲気のもの」ということだね。
少なくとも川魚一般を「泥臭い」で片付けてしまっては、川魚に気の毒ということだ。
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コメント
鯉ですかぁ?
長野の田舎でいただきましたが、臭さは皆無、それより小骨が気になる方でした。
それに一端の料理店なら、数日きれいな水に放って臭み(本文のものと合致しているのか不明ですが)を抜くと聞きます。(一端の料理店に行ったことはないと思う)
鮎はコケを食べ、他のイワナやヤマメは虫を食べるので、内臓の味に違いがあるそうです。
アタクシにその味覚への作用と影響はわかりませんが、少なくとも鮎は内臓ごと調理する方が多いと思います。
長々と申し訳ございません。
最後にひとつだけ。
「ぎゃーぎゃー言わずにありがたくいただけ!」
投稿: 乙痴庵 | 2017年10月11日 19:11
乙痴庵 さん:
「鯉の洗い」 (刺身なんでしょうね) なんてものをその昔に食ったことがあります。寄生虫の心配のない 「養殖もの」 なんだそうで、文字通りの 「泥臭さ」 は皆無でした。
それでも 「泥臭い」 と言いたがる人はいて、その意味でもやっぱり 「雰囲気のもの」 なんでしょうね ^^;)
>「ぎゃーぎゃー言わずにありがたくいただけ!」
賛成です。
もしどうしても食いたくないなら、「泥臭い」 なんてわけのわからないことを言わずに、黙って見てろということです。
投稿: tak | 2017年10月11日 20:37
記事を読んだうえで仮説を立てるなら
調理法による泥臭さの残留
原因としては血抜きの失敗と思われる
海魚を調理するのは習慣的に魚を取り扱う漁師であるが
川魚を調理するのは時たま魚を取り扱う料理人、あるいは素人である
その為、漁師であれば泥臭い調理法は習慣的に修正される
また、料理人にしても川魚に執着しレシピを作成するのであれば、習慣的に修正される
あるいは既存のレシピを漁師から得て海魚を使用する
素人はそうではなく、料理に必要なセオリーも守らず
自分で釣り、血抜きもせずに失敗し、泥臭く感じ
二度は食べなくなる
仮に、狩りが日常的な物であれば
素人が自分で取った鶏肉で失敗し
鳥は血生臭いので食べないと言う人間も生まれたでしょう
投稿: test | 2018年9月 2日 15:01
もう一つありました
川と違い、池などは水質に多大な問題を抱える事がある為
ほんとに身の全てが泥臭い事がある
川魚=淡水魚ととらえ
池での釣果を頂くのであれば
それが何であれ泥臭いと断言します
投稿: test | 2018年9月 2日 15:06
test さん:
私は海辺の出身で、父は海釣り大好き人間でした。釣ってきた魚をしょっちゅう自分で調理していましたが、「血抜き」なんてプロセスを経ているとは思えませんでした。それでも十分おいしかったです。
翻って川魚ということで言えば、まあ、本当に泥臭い川魚もあるのでしょうが、 すべての川魚を同列に「泥臭い」とするのは、思い込みでしかないですね。
投稿: tak | 2018年9月 2日 20:05
気のせい・思い込み・調理ミスに1票です。
子どものころ父とよく鯉釣りに行きました。とても清流とは言えない淀んだ下流域で10や20は釣れますが、大抵は1匹持ち帰って刺身(洗い)で食べてましたが泥臭さを感じたことは無いですね。父母も泥臭いとか言っていた記憶はないです。
ただ母は釣具屋の娘でしたので下処理がうまかったのかもしれません。
でも今思うと寄生虫は怖いですね。
投稿: らむね | 2018年9月 2日 21:42
らむね さん:
>気のせい・思い込み・調理ミスに1票です。
「川魚泥臭い説」 の要因は、まさにこの順番だと思います。調理ミス以前に、気のせい、思い込みが大きいとしか考えられません。
味覚って、「気のせい」がものすごく左右します。ごく普通のレトルト食品を、「一流レストランのシェフが作った」 と言って食わせると、大抵の人が 「さすがに美味しい!」 と感激します (^o^)
投稿: tak | 2018年9月 3日 07:31
ふーむ・・・
でも、淡水魚特有の「泥臭さ」っていうのはあるんですよ。生臭さとは違うんですよね。
鮎やニジマスなんかはその泥臭さが少ないからこそ川魚として人気があるんですよ。
先日、インドネシアに行って、GURAMEという白身魚を食べたんですが、泥臭さを感じました。
聞いてみると、やはり淡水魚とのこと。
にスパイスのかかったあんかけをかけて食べるんです。結構美味いです。
「泥臭さ」と書くから嫌なイメージかもしれませんが、川魚の風味、でもあるわけで、それを好きとか嫌いというのは、自然なことではないでしょうか。
投稿: てぃおん | 2019年9月17日 14:55
てぃおん さん:
ふぅむ、「川魚の風味」といわれると、「なるほど」という気がします。
要は、その風味の口に合わない人は「泥臭い」と言って嫌うということなのかもしれませんね。
投稿: tak | 2019年9月17日 18:28
泥臭さも風味の内というのは賛成です。中国のレンギョの頭の料理は最初食べた時は泥臭く感じましたが、食べ慣れると、それが風味として美味しく感じます。
投稿: YAS | 2020年2月 1日 19:16
YAS さん:
>中国のレンギョの頭の料理は最初食べた時は泥臭く感じましたが、食べ慣れると、それが風味として美味しく感じます。
それ、とてもよくわかります!
投稿: tak | 2020年2月 1日 21:08