「留辺蘂 (るべしべ)」 という地名
今月 1日から 5日まで、北海道に出張していて、とくに 3日から 5日まではレンタカーを借りて網走、北見、置戸(おけと)方面を走り回った。北海道の地名というのはアイヌ語に漢字を当てはめたのが多いので、かなり読みにくかったりするが、中でも「留辺蘂(るべしべ)」は、難読の上に書くのも大変そうな字として強烈に印象に残った。
留辺蘂はアジア最大の水銀鉱山のあった町として、知る人ぞ知る存在であるらしい。地名の由来は、Wikipedia によればアイヌ語の "ru·pes·pe, ru·bes·be" に由来し(参照)、北見市のサイトでは次のように解説されている。(参照)
アイヌ語では、道のことを 「ルー」 越える道を 「ルペシュペ」 と称し、本町の場合は佐呂間別川へ越す道の意味で、ペをベにし、シュペをシベにして 「ルベシベ」 と訳し、さらに漢字の 「留辺蘂」 をあて、今日にいたっています。
なるほど、いわゆる「峠」のような地形になっているところを、アイヌ語では「ルペシュペ」と称したわけだね。そう言えば、アイヌ語を研究していた父に聞いた覚えがある。上述の Wikipedia ページによると、日高支庁静内町にも同じ「るべしべ」と読む「碧蘂」という地名があるらしい。これなんか同じような地形が語源なんだろうが、「留辺蘂」に輪をかけた難読地名である。
「蘂」という漢字は、音読みは「ズイ」で、訓読みは「しべ」。一見ものすごく難しい漢字に見えるが、「芯」の下にもう 2つ「心」 を書いて、その下に「木」を書くと分析すれば、覚えやすい。JIS 第二水準漢字で、「るべしべ」と入力すれば、呆気ないほどあっさりと「留辺蘂」に変換される。
ちなみに、「蘂」 という字の下の「木」という部分を取って、くさかんむりの下に「心」を 3つ書いた「蕊」というのが、「芯」 という字の旧字体なんじゃないかという気がしていたが、手持ちの漢和辞書(三省堂 『携帯漢和中辞典』)を調べたところ「蕊」は「蘂」の異体字で、さらにくさかんむりの下に「正」の字を 3つ書く「蕋」という俗字もあるという。ATOK では 3つとも「しべ」と入力して簡単に変換できたのに驚いた。
国語辞書で「蘂」の意味を引けば「花の生殖器官」と出てくる。「おしべ/めしべ」は、本来「雄蘂/雌蘂」と書くものらしい。迂闊なことながら、こんなのはこの年になって初めて知った。いやはや、辞書は調べてみるものである。
とはいえ、同じ辞書でも漢和辞書の方ははうんざりするほど調べるのが面倒なので、普段はできるだけ手を触れないようにしていて、今回久しぶりで開いてみた。中国の人は大変だろうなあ。といっても、中国人は漢和辞書なんて引かないか。
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コメント
「蘂」の字を見た時は、こんな漢字は覚えきれない、無理と思いましたが分解すると実に簡単ですね。一つ漢字を覚えました、感謝。ms-imeは蘂だけは変換できました。あとはNG、はいおまけですからね。
投稿: ハマッコー | 2017年11月13日 18:46
ハマッコー さん:
アルファベット圏の人たちは、ごく簡単な漢字でもお手上げになるようです。
逆に日本人は長い単語のスペルが苦手ですが、彼らはあたかも漢字の 「へん」 と 「つくり」 の組み合わせの如く覚えちゃうんですね。
MS-IME は、あんまりお利口じゃないですね。私は Windows ユーザーだった頃から ATOK が手放せませんでした。Mac 上でも愛用してます。
本文にも 「ATOKでは」 という一言を追加しておきました。
投稿: tak | 2017年11月13日 19:19