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2017年12月26日

『天津祝詞』の読み方を巡る冒険

昨年 5月の「固有名詞まで訛っちゃうんだもの」という記事で、茨城では「い」と「え」が見事に入れ替わってしまうという話を紹介した。今住んでいる家の購入契約をする時、「それでは、『えんかん』をお願いします」 と言われて、一瞬「鉛管?」と思ったが、それは「印鑑」のことだったというほどのものである。とにかく生粋の茨城人は、「色鉛筆」と言えないのである。

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この関連の話だが、茨城の神社で祝詞を聞いて、初めて「ん?」と思ったのは、10年以上前のことだ。誰かの結婚式に出席したときだったかもしれない。恒例の「天津祝詞(あまつのりと)」の「筑紫の日向の……」以後は、一般的には次のように奏上される(と、少なくとも私は思っていた) 。

筑紫(つくし)の日向(ひむか)の橘(たちはな)の小戸(おど)の阿波岐原(あわぎはら)に
御禊(みそぎ)祓(はら)い給(たま)う時に
生坐(あれませ)る祓戸(はらいど)の大神達(おおかみたち)……

ところがその時の神官は、上記の 3行目の 「御禊祓い給う時」 を 「みそぎはらえたまうとき」、4行目の「祓戸(はらいど)の大神達」を、「はらえどのおおかみたち」と発音したのである。とまあ、そんなわけだから、それに続く「祓い給え、浄め給え」の部分も、すっかり「はらえたまい、きよめたまい」になってしまう。

私はそれを聞きながら、「さすがに茨城だなあ」と、むしろ微笑ましく感じていたのだった。

ところが最近、「天津祝詞」というキーワードでググってみて驚いた。多くのページで「みそぎはらえたまうとき」、「はらえどのおおかみたち」、「はらえたまい、きよめたまい」という振り仮名になっているのである。敢えてリンク先は示さないが、試しに「天津祝詞 全文 読み方」というキーワードでググってみるといい。

つまりこれ、なんとまあ、茨城だけの話ではなかったようなのである。じゃあ、一体どっちが本当なんだ?

ここで 『天津祝詞』 をまとめた張本人と言われる平田篤胤の原文といわれるものの画像を紹介しよう。本物という確証があるわけでは決してないが、ざっとこんなものである。

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本文 4行目の「御禊祓比給布時」で、「祓」の送りがなは 「比」、これは現代の平仮名の「ひ」の元になった漢字で、その振り仮名も当然ながら「ヒ」になっているので、「禊ぎ祓ひ給ふ時」、つまり発音としては、「みそぎはらいたまうとき」で OK だろう。

その次の行、「祓戸」の振り仮名は「ハラヒド」なので、やはり「はらいど」と読むべきなんだろうね。さらにその次の行は、「拂比賜弊清米賜閉」で、振り仮名も「ハラヒタマヘキヨメタマヘ」なので、現代の発音は「はらいたまえ、きよめたまえ」となる。

そうじゃないとするウェブページもいくらでもあるのだが、「禊ぎ祓へ給ふ時」と「祓へ給ひ」は文法的に疑問で、「祓ふ」は「給ふ」を原型とする動詞に続くので、「祓ひ」という連用形になるのがフツーだ。というわけで、少なくとも文法的には「禊ぎ祓ひ給ふ時」、「祓ひ給へ」が正式と思うほかない。「祓戸」も、この類いの言葉はフツー「動詞の名詞形 + 名詞」で成り立つ(「回れ道」じゃなくて「回り道」になるように)ので、「祓ひ戸」だろうと思っている。

ただいずれにしても、この手のものは口伝えで受け継がれ、つまり「耳で覚える」ことが多いので変形してしまいやすく、結構いろいろなバージョンがある。「これが絶対に正しい」というのも無粋で気詰まりなので、硬いことを言わず慣れ親しんだ形でやればいいと、個人的には思ってしまうのである。

そもそも、この祝詞、正式には「天津祝詞」じゃなくて「大祓詞」というのだという説もあるので、素人としてはますます硬いことは言わないでおく方が無難だろうと思ってしまう。

 

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コメント

地方地方によって訛りはありますよね。

でも、takさんの今回のお話で一番気になったのは!
「色鉛筆」を茨城訛りで話しちゃうと・・・

卑猥(苦笑)

どーしよーもない投稿ですみませんm(_ _)m

投稿: Senna | 2017年12月27日 21:31

Senna さん:

いや、茨城人が言うと、ごくフツーにそういうものとして聞こえてしまうから不思議なんですよ。

投稿: tak | 2017年12月28日 19:43

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