「雰囲気 — ふいんき」問題を巡る冒険
今月 17日付の "「不要タイヤが必要になる」だと?" という、日本語の一音一拍がおろそかになっていることを論じた記事に、乙痴庵さんが 「iOS 変換候補にフインキで雰囲気が表示されやがった…。iOS、お前もか…」とコメントしてくれた。この「雰囲気 — ふいんき」問題は一音一拍とは違い、「音位転換」とか「音転現象」という範疇のものだが、いずれにしても、iOS までが「ふいんき」に迎合してしまったとは一大事である。
言うまでもなく「雰囲気」の読みは誰が何と言っても間違いなく「ふんいき」なのだが、近頃では「ふいんき」だと思っている日本人が増えてしまっているようなのである。平仮名で「ふいんき」と入力しても「雰囲気」に変換されないと言って騒ぎ出す人もいた。
ここで「いた」と書いたのは、まさにそれが過去形になってしまったからに他ならない。iPhone で「ふいんき」と入力すると、上の図のように、「雰囲気」が変換の第一候補として示されるようになってしまったのである。それだけでなく、ATOK でも「ふいんき」の入力で「雰囲気 ≪ふんいきの誤り≫」と表示され、そのまま確定キーを押すと、なんのことなく「雰囲気」に変換されてしまう。
個人的にはかなり腹立たしいが、今や「雰囲気 — ふいんき」は、少なくともかな漢字変換の世界では、ほとんど市民権を獲得してしまったようなのである。ただ、ここまで来てしまうと、「腹立たしい」とばかりも言っていられないのではないかと思い始めた。
というのは、こうした「音位転換/音転現象 というのは、日本語の世界ではこれまでもなかったわけではないのである。ごく身近な例でいえば、この季節にきれいな花を咲かせる「サザンカ」が挙げられる。これ、本来は「サンサカ」という言葉だった。漢字で「山茶花」と書くのだから、「なるほど」と納得してもらえるだろう。それがいつの間にか「サザンカ」で定着してしまったのである。
ほかに「舌鼓」がある。これ、言葉の成り立ちからして「シタツヅミ」が元の形なわけだが、やはりいつの間にか「シタヅツミ」で定着してしまった。同様に「秋葉原」も元は「アキバハラ」、あるいは 「アキバッパラ と呼ばれていたが、今日では JR の駅名も「あきはばら」と表示されている。上でちょっと使った「腹立たしい」も、中には 「はらただしい」 なんて言う人もいるし。
もしかすると「雰囲気」も、将来的には「ふいんき」が正しい読みとして認知されてしまうかもしれない気がしてきた。生きている間にそんなことにならないように望むが、100年も経ったらどうなっているか、知れたものではない。
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コメント
恐れ入ります。
本文登場、ありがとうございます。
「口語/文語」なんて習っていた訳で、時代とともに言葉は変化していくものと、腹に納めなければならないのでしょう。
学生時代に司会放送のクラブ活動に所属し、「NHKアクセント語辞典」が喋りの基本でした。
そんな流れで口語で必要な場合には、NHKアナウンサーに準拠しているつもりです。
「コンビニ」がニュースで流れる様になって、「〜たりとか」も当たり前になって、NHKアナウンサーの言葉も変化しているんですよねー。
ってこたぁ、「NHKニュース」でフインキが出る様になったら、諦めますかなと。
投稿: 乙痴庵 | 2017年12月25日 12:45
乙痴庵 さん:
思わず 「ワシの目の黒いうちは許さん!」 なんて言いたくなっちゃいますね (^o^)
投稿: tak | 2017年12月25日 21:27