近江と遠江という 2つの国
知り合いに近藤さんと遠藤さんという人がいて、どちらも同じような仕事をしているのでややこしい。地名でも、これは旧律令国名だが、「近江」と「遠江」というのがある。下の地図では残念なことに「遠江」のふりがなが「とうとうみ」となっているが、「とおとうみ」が正しい。さらに言えば、旧仮名では「近江」が「あふみ」で、「遠江」は「とほたふみ」となる。
遠江の国とは、今の静岡県西部にあたり、長門国を「長州」、甲斐国を「甲州」 というのと同様に、「遠州」とも言った。広澤虎三の浪曲で「遠州森の石松」というのが有名になっているが、遠江の森というところの生まれということになっている。ただし、実在したかどうかは怪しいらしい。
遠江と近江(今の滋賀県)がワンセットの地名であるとは、昔から言われていることだ。つまり琵琶湖が都のある畿内から近い湖なので 「近い淡海」という意味で「近つあはうみ」と言われていたのに対し、浜名湖は「遠い淡海」ということで「遠つあはうみ」と呼ばれ、それがそのまま地名の「とほたふみ」-「とおとうみ」になった。
まあ、ここまではよく知られていることだが、私はこれまでずっと「浜名湖は『淡海』(淡水湖)じゃなくて、海水と混じり合った汽水湖なんだがなあ」と疑問に思っていた。「看板に偽りあり」というわけである。
ところが、最近たまたま機会があって調べてみたところ、浜名湖は昔は本当に「淡海」、つまり淡水湖だったということがわかった。地名は嘘じゃなかったわけである。Wikipedia の「浜名湖」の項目に次のようにある。
もとは砂州によって境される淡水湖が 1498年の大地震と高潮により、砂州が決壊し外海と通じ、汽水湖となった。
より詳しくは、次の記述がある。
浜名湖は海に近い湖であったが、湖面の方が海面より高く、浜名湖より流れ出る川を海水が逆流するようなことは無かった。
しかし、明応 7年(1498年)に起きた明応地震やそれに伴う津波により、浜名湖と海を隔てていた地面の弱い部分(砂提)が決壊し現在のような汽水湖となった。
へえ、知らなかった。とすると、浜名湖の「遠つ淡海」は、「都から遠くにある淡海」という元々の意味の他に、図らずも「遠い昔は淡海だった」という意味までもってしまっているのだね。
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コメント
弟「古文わかんない」
私「読んでみ」
弟「きんえの○○が・・・」
私(ん?近衛のことか?)「ちょっと見せてみ」
!『近江』!
当時からどっぷり信長の野望なんぞにハマっていた私としては、「おうみ」ってフツーは読めないんだ、ということに衝撃を受けたのを思い出しました(弟ごめん)。
湖の歴史ネタなら、「巨椋池」「古代琵琶湖」なんかも面白いです。
投稿: らむね | 2017年12月 8日 11:20
らむね さん:
うぅむ、「近江」 はフツーだと思ってましたがねえ ^^;)
これが 「きんえ」 だったら、「常陸 (ひたち)」 なんか、ほぼ確実に 「じょうりく」 ですね。
さらに 「美作(みまさか)」 は 「びさく」、「周防(すおう)」 は 「しゅうぼう」、「伯耆(ほうき)」 は 「はくムニャムニャ」。
投稿: tak | 2017年12月 8日 16:09
返信に返信してすみません。
私、文学部史学科東洋史専攻なんですが、日本史専攻のクラスメートが「三河をサンガって呼んで教授に怒られた奴がいる」と言ってたのを思い出しました。
えー?それはなかろう、と思ったんですが、話を聞くと本文では「参河」と書いてあったようで、それだと前後の文脈次第で私も読み間違えるかなあと感じました。
いずれにせよ日本史専攻の科目でのことなので、予習不足は否めないですけど。
投稿: らむね | 2017年12月 9日 03:34
らむね さん:
昔の地名は、いろいろ気紛れとしか思われないような表記が混在しますよね。「参河」 の 「参」 は、「三」 の代わりなんでしょうね。格式張った領収証に書くときみたいな。
「因幡」 もその昔は 「稲葉」 だったらしいし、そんなような例は、思い出せないほど沢山あります。
投稿: tak | 2017年12月 9日 11:52
夏の終わりに引越しをする際、業者のスタッフさんとの顔合わせのときです。
最後に紹介されたスタッフさんが、小柄で目鼻立ちの通った女性で「トーマスさん」と呼ばれました。
まあ早とちりですが、炎天下作業でしっかり日焼けされた目のクリクリっとした女性を、勝手に外国から来られた方としばらく勘違いしておりました。
はいそうです。
その女性は「遠松さん」でした。
近江遠江のお話で思い出された一席のお粗末。
投稿: 乙痴庵 | 2017年12月11日 20:41
乙痴庵 さん:
「近江/遠江」のワンセットがあって、「近藤/遠藤」 という組み合わせもあるのは、OK でしたが、「近松/遠松」 というのは、かなり意表を突かれました。
「遠松門右衛門」 って人もいそうで...... ^^;)
投稿: tak | 2017年12月11日 23:19
では、「遠江俊子」さんにもお出ましいただきましょうか。
(読みとフリガナがたいへん…)
投稿: 乙痴庵 | 2017年12月12日 05:59
乙痴庵 さん:
その旦那が、「遠江スシロー」 だったりして。
(このネタ、若い人にはわからないだろうなあ)
投稿: tak | 2017年12月12日 19:56