「かんばしい」と「かんばせ」は別々の成り立ちの言葉
「元々からして別の言葉なんだろうな」と思いつつも、敢えてきちんと調べてみたことのない言葉に、「かんばしい」と「かんばせ」というのがあった。とくに「かんばせ」の方は死語になりつつあると思う。
改めて辞書にあたってみると、「かんばしい」は次のように出ている。
かんばし・い 【芳しい/×馨しい/▽香しい】 の意味[形] [文] かんば・し [シク] 《「かぐわしい」の音変化》
1 においがよい。こうばしい。「―・い花の香り」 「栴檀 (せんだん) は双葉より―・し」
2 (多く打消しの語を伴って用いる) 好ましいもの、りっぱなものと認められるさま。「成績が―・くない」
[派生] かんばしげ [形動] かんばしさ [名]
類語 香ばしい (こうばしい) かぐわしい
一方、「かんばせ」 はこうだ。
かん‐ばせ 【▽顔】 の意味《「かおばせ」の音変化》
1 顔のようす。顔つき。容貌 (ようぼう) 。「花の顔」
2 体面。面目。「何の顔あって父母にまみえんや」
いずれも Goo 辞書からの引用だが、「かんばしい」は「芳しい」と表記するように、「においがよい」というのが元々の意味で、「香ばしい (こうばしい)」「かぐわしい」が類語になっている。「栴檀は双葉より芳し」というのは、元々の意味に沿っているが、「好ましい」という一般的な意味の場合は 「成績がかんばしくない」「かんばしい結果ではない」などと、もっぱら否定形で用いられることが多い。
そして「かんばせ」という語の漢字表記は「顔」になるというのを、今回調べてみて初めて知った。「顔つき」「体面」の意味がある。用例としては、芭蕉の『奥の細道』で、松島の様子を「その気色(けしき)、窅然(えうぜん)として美人のかんばせを粧(よそほ)ふ」 というのがよく知られているが、最近では「花のかんばせ」以外の用例を知らない。
「かんばせ」 がほとんどいい意味で用いられるので、「かんばしい」の名詞形が「かんばせ」のような気がするほどだが、実際は語源も違っていて、まったく別の言葉というのが確認された。漠然とは思っていたが、調べてみるものである。
そして近頃では「かんばしい」はどういうわけか、主に否定形の用法として生き残っているような気がする。「あまり芳しいものとは言えない」とかね。そして「かんばせ」の方はどんどん死語になっていくのだろう。
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