「めくるめく」の漢字表記が 「目眩く」だったとは
恥ずかしながら、「めくるめく」という言葉の語源を初めて知った。漢字で書くと「目眩く」となるのだそうで、それだったら「めくるめく」じゃなくて「めくらめく」だろうと、つい思ってしまうが、最近は見当外れなところまで「差別用語」だと言い張る人がいるので、「めくるめく」の方が無難なんだろう。
何しろ「目眩く」だから、形容詞じゃない。手持ちの『大辞林』で調べると、「動カ五」(動詞 カ行五段活用)となっている。昔習った国語文法風に活用を全部言えば「目眩かない — 目眩きます — 目眩く— 目眩く時 — 目眩けば — 目眩こう」となる。まるで早口言葉だ。
意味は「目がくらむ。めまいがする。また、魅力にひかれて、理性を失う」ということで、用例として「目眩くような高さ」と「目眩く快楽の日々」が挙げられている。ただし最近は「目眩くような高さ」 的な表現は減って、もっぱら官能的な方面で理性を失うというような形でのみ用いられる印象がある。
さらに動詞とはいえ、フツーは「連体形 (目眩く〇〇)」として使われるのみで、他の活用は聞いたことがない。形としては同じだが、「俺は高所恐怖症だから、高いところに行くと目眩く」なんて言い方はまずしない。だから、つい「めくるめく」は形容詞なんだと思いがちだが、元々のところから発想すればそうじゃないのだね。
で最初の、元々は「めくらめく」 なんじゃないかという疑問に戻るが、実は「眩めく」の元々の形は「くらめく」じゃなく「くるめく」のようなのである。古語辞典を引いてみればわかるが、「くらめく」という項目は見当たらず、「くるめく」があって、漢字は「転めく・眩めく」だ。意味は「くるくる回る。せわしく動き回る、騒ぎまくるとされている。
つまり「目眩く」の元々の意味は「目が回る」ということのようなのだ。「くるくる回る」から「くるめく」というわけで、「ころころさせる」から「転がす」とか、「むかむかする」から 「むかつく」とかと同様の成り立ちで、ほとんど擬態語に近い。
さらに手持ちの『例解古語辞典 (三省堂)」では「眩む(くらむ)」という項目すらも見当たらず、「暗ます」という動詞があるのみである。意味は「暗くする。見えなくする。理性を失わせる。たぶらかす」ということで、「めくるめく(眩めく・転めく)」に「理性を失わせる」との意味が加わったのは、この「暗ます」への連想ということもあるかもしれない。
で、現代では「めくるめく」という言葉から「目が回る」といった直接的な意味が薄れてしまい、もっぱら官能的な意味に用いられるのは、「目が回る」という意味の「目眩く」という語源が忘れ去られかけて、「理性を失わせる」という意味の「暗ます」的なイメージが優勢になっているからかもしれない。
いつも思うことだが、まさに言葉は生き物である。
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