「潜伏キリシタン」 ということ
日本が推薦していた「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が、UNESCO の世界遺産として登録された。これまで「隠れキリシタン」と言われていた存在が「潜伏キリシタン」と、聞き慣れない名称になっているのが興味深い。
日本は 2007年に UNESCO への推薦の前段階としての「暫定リスト」に、「隠れキリシタン」関連の資料を追加、そして 2015年に推薦書を提出した。しかしこの時点では却下され、UNESCO の世界遺産関連の諮問機関である国際記念物遺跡会議 (ICOMOS = International council on MOnuments and Sites)の「日本の特徴である禁教期に焦点を当てるべきだ」との中間報告に沿って申請し直しを行った結果、今回の登録につながったらしい。
なるほど、頷ける話である。キリスト教関連の遺跡というのは、日本だから珍しいだけであって、世界的に見ればいくらでもあるのだから、とくに「世界遺産」として登録するほどのものでもなんでもない。登録する価値があるとすれば、「禁教期」において、250年もの間、カソリックなのにバチカンの指導から隔離された信仰を継続してきたという、極めて特異な点だ。こうした状況では、日本独自のフォークロアリスティックなものに変化しないはずがないじゃないか。
私は長崎に旅行した際に隠れキリシタン関連の遺跡を結構訪問している。その印象から湧いたのは、「隠れキリシタンの信仰は、正当なカソリックとはかなり違っているんじゃあるまいか。そのあたりを、どうやって折り合いつけるんだろう」という疑問だ。祈りの言葉を、彼らは「オラショ」というようなのだが、それはかなり「呪文」の如くに変化しており、当の隠れキリシタンにさえも正確な意味は知られていないものもあるというのである。
これに関して『潜伏キリシタンは何を信じていたのか』という本があることを知り、早速 Amazon で購入申込みをした。著者の宮崎堅太郎さんという方は宗教学者で、自身も隠れキリシタンの家に生まれたという人らしい。
これに関する「サライ」の記事に、次のようにある。(参照)
宮崎さんは長年の調査研究の結果、「潜伏キリシタン」たちにとってキリスト教とは仏教や神道の神さまと同列か、あるいはそれよりちょっとご利益の大きい神様だったということに気がついた。それはキリスト教本来の一神教の神ではない。実際のところ、彼らの家には仏壇や神棚とともにマリア像がなかよく祀られていた。
彼らはなぜキリスト教風ともいうべき教えを守ってきたのか。聞き書きしたひとりの信者がこう語っている。「先祖たちが大切にしてきたものを、絶やすことなく守り続けるのが子孫としての大切な務めであり、自分の代で絶やしてはならない」。これは形を変えた先祖崇拝だと、宮崎さんはいう。
これはとても興味深いことである。一神教の代表格であるキリスト教が、多神教の国で存続してきたのは、こうした風土があったからだろう。
これ以上のことは、本が届いて読んでみてから、改めて書こうと思う。
【7月 2日 追記】
この件に関して、コラムニストの堀井憲一郎氏が "「潜伏キリシタン」世界遺産へ…日本人がしがちな誤解を解いておこう" という記事を書いている。これは「制度」の視点から書かれたもので、「信仰そのもの」について深く考察したものではないが、確かに「日本人のしがちな誤解」を解く助けにはなるから、一読をお勧めする。
【7月 4日 追記】
「これ以上のことは、本が届いて読んでみてから、改めて書こうと思う」と宣言したので、本日 "「潜伏キリシタン」 ということ その2" を書いた。
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コメント
そうすると、いわゆる教義や聖書の内容といったものはどの程度潜伏キリシタンが継承していたのか、気になりますね。
人任せで恐縮ですが(西野監督を見習ってw)続報お待ちしています。
投稿: らむね | 2018年7月 1日 10:07
らむね さん:
件の本は、Amazon から本日届きましたが、今日はうだるような暑さの中、もの好きにも自転車でヒルクライムをしてきたので、疲れてしまって封を開けてもいません ^^;)
今しばらくお待ちください。
投稿: tak | 2018年7月 1日 23:12
あら、tak先生、この暑いのにまた自転車で山を登ったの? 大丈夫かしら?
余計なお世話かもしれないけど、暑いときは自転車山登りは控えたほうがいいんじゃないかしら?体への負担が大きいからよ。
どうしてもやりたいのでしたら、朝方に登るとか、木陰の多いルートを使うとか、走る前・走っているとき・走ったあとに充分な水分やミネラル分をとるとかにお気をつけくださいね。
できれば、体につける心拍計を使って(もう使ってらっしゃるかも?)、あまり心拍が上がりすぎないようにするのもいいんじゃないかしら。
お気をつけて!
投稿: のうさぎマリアンヌ | 2018年7月 2日 09:26
ううう。せっかく400年ぐらいナイショにしてたのに…。
投稿: 乙痴庵 | 2018年7月 2日 12:33
のうさぎマリアンヌ さん:
いやはや、暑かった ^^;)
でも、狂気の沙汰でしたが、登ってみると爽快でした。
投稿: tak | 2018年7月 2日 16:12
乙痴庵 さん:
座布団三枚! (^o^)
投稿: tak | 2018年7月 2日 16:14
表題とは離れますが、また自転車の件です。ヨーロッパでは電動アシストのマウンテンバイクを使った山岳ガイドツアーが流行っているそうですよ。
そうしたアシスト機能を利用して、体に負担をかけずに山のサイクリングを楽しむのも良いのではないでしょうかね。
あっ、私は坂がつらければなんの抵抗もなく自転車を降りて押しますので電動アシストは必要ありませんがね(おいおい)。自転車を押すのが全く恥ずかしくないので( ̄ー+ ̄)ニヤリ
http://nousagimario.m.blog.jp/
投稿: 萩原水音 | 2018年7月 4日 22:45
萩原水音 さん:
ヒルクライムだと、私は意地でもペダルをこぎ続けるタイプです。というか、自転車押して歩くのが面倒くさいというか ^^;)
まあ、年ですからスピードは出ませんがね。
投稿: tak | 2018年7月 5日 14:21
萩原水音さん、takさん
でもこれが、『極小モーターをフレーム内に忍ばせ機械的なドーピングをする自転車選手』となると笑い話では済まないですよねえ。報道見た時「その手があったか!」と感心してしまいました。悪いことを考える人は尽きることがないですね。
投稿: らむね | 2018年7月10日 01:38
らむね さん:
そんな手の込んだことをする人がいるんですね ^^;)
そんな面倒なことするぐらいなら、不精者の私はビリでもいいです。
投稿: tak | 2018年7月10日 10:07