「コンパラゲ」「ウドンゲ」 という名の花の正体
久しぶりの『無門関』ネタ。 今回は「拈華微笑」(「ねんげみしょう」と読む)ということの論じられる「世尊拈華」(第六則)という公案を斜め方向から考察する。
原典を書き下すと、次のようになる。
世尊、昔、霊山會上に在って、花を拈じて衆に示す。この時衆皆黙然たり。唯迦葉尊者のみ破顔微笑す。世尊曰く、吾に正法眼藏、涅槃妙心、実相無相、微妙の法門あり、不立文字、教化別傳、摩訶迦葉に付嘱す。
これだと「意味分からん」ということになってしまうので今の言葉で説明すると、大方こんな具合になる。
ある日お釈迦様が説法に現れたが、この日は何も言わずに、ただ手に持った花を捻って、微笑されるだけだった。集まった人たちはそれを見ても釈迦の真意を理解できず、ただ呆然とするだけだったが、独り迦葉(かしょう)尊者のみがにっこりと笑った。お釈迦様はそれを見て、「言葉として現せない深い真理を、今、迦葉に伝えたぞ」と宣言された。
というわけで、迦葉は釈迦の後継(第二祖)になったと伝えられている。仏法の深い真理は、究極的には「不立文字」(「ふりゅうもんじ」と読む。文字として表現するのは不可能ということ)とされているのだ。
で、お釈迦様が「言葉にできない仏法のシンボル」として用いたのが、たまたま「手に持っていた花」というわけで、原典には何の花かは記されていない。ただ「花」とあるのみだが、古来から「金波羅華」(「コンパラゲ」 と読む)の花だったと伝えられている。
ところがこの「コンパラゲ」というのは、植物図鑑にも出てこないし、手持ちの『大辞林』にもその項目すらない。ググってみても今イチよくわからないだけでなく、そもそも ATOK では「こんぱらげ」と入力しても変換されないので、単語登録が必要なほどだ。「謎の花」である。古来から「金波羅華とは蓮の花」という人が多いが、決定的なものではない。
「優曇華」(ウドンゲ)の花だったとの説もある。そしてさらに面倒なことには、この「優曇華」というのも、Wikipedia によると「実在の植物を示す場合、伝説上の植物を指す場合、昆虫の卵を指す場合とがある」(参照) ということになっている。
実在の植物としては、「日本国内では熊本県山鹿市と長崎県佐世保市のみに自生するアイラトビカズラ、南アジア原産のクワ科イチジク属の落葉高木、フサナリイチジクをウドンゲにあてる場合がある」とされ、伝説上の植物としては「仏教経典では、3000年に一度花が咲くといい、その時に金輪王が現世に出現するという」とある。
ついでだから紹介しておくが、「他の物に産み付けられた昆虫クサカゲロウの卵塊をいう」 とも書いてある。さらにバショウの花をウドンゲと呼ぶことがあるというのだから、改めてその正体探りをしてもあまり意味はないだろう。
とにかく「仏法を象徴するに相応しい、美しい花」と思うほかないようで、「金波羅華」や「優曇華」とは何かという命題そのものが、不立文字のようなのである。
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コメント
「盲亀の浮木」も、変換候補に出ませんでした。
「ここで会ったが百年目!汝憎っくき父の仇!盲亀の浮木、優曇華の華!」
チックタックの漫才ネタで、やってましたよ。
投稿: 乙痴庵 | 2018年7月 9日 15:22
乙痴庵 さん:
「盲亀の浮木」 は、恥ずかしながらこのように表記するということはおろか、その言葉すら、しっかりとは知りませんでした。
大変勉強になりました。ありがとうございます m(_ _)m
投稿: tak | 2018年7月10日 09:51