「かなとこ雲」が翻訳語という推量は正しかったようだ
下の写真は刀鍛冶の桔梗隼光さんという方が使っている「金床」である(参照)。砥石で仕上げた直後というだけに、うっとりするほど美しい。画像検索で見つけたのだが、他の刀鍛冶のものをみても大体似たような形だ。
今月 9日の "「かなとこ雲」を巡る冒険" という記事で、「かなとこ雲」の「かなとこ」というのは、鍛冶屋さんの使う道具、『金床』 のことであることに触れた。ただそれに関連して、「もしかしたら、この『かなとこ雲』という名称自体が、明治以後にできた翻訳語なのかもしれない」 という疑問を呈しておいたのである。
かなとこ雲の学術名 "Incus" はラテン語で「金床」を意味し、英語でもこの雲を "anvil cloud" (anvil は「金床」の意)と称する。それで初めは、この雲の特色ある形が「洋の東西を問わず同じ道具を連想させる」のだと早合点しそうになったが、すぐに「いや、多分そうじゃないだろう」 と思い直したわけだ。
いくら何でも、名称が共通しすぎて、「かなとこ雲」という日本語は、英語(あるいは他の欧米語で「金床雲」を意味する言葉)からの翻訳語なのではないかと考える方が、自然に思われる。ただ、これは私の直観に過ぎないので、客観的にそう言い切るための証拠が見つからない。
江戸時代以前の日本の文献に「かなとこ雲」という語が出てきたら、私の推量は崩れるので、ここ 2〜3日、暇を見ては「金床 古典文学」というキーワードでググり続けてきたが、検索されない。これは期待通りなのだが、 「見つからない」ことが「ない」と結論づけるためのエビデンスにはならないので、ちょっとウジウジしていたわけだ。
ところが今日、「そうか、テキストではなく、日本の伝統的な金床の形を見ればいいではないか」と気付き、画像検索して上の写真が見つかった。9日の記事で使った画像を下に再録したが、西洋の金床との形の違いは明白で、両者は別物と言っていい。「かなとこ雲」の名称は、日本の四角い塊の金床からは発想しようがない。
どう見ても、かなとこ雲というのは西洋の金床の形から付けられた名前である。ということはどうやら、「明治以後の翻訳語だろう」という私の推量が正しかったと結論づけていいだろう。
重箱の隅案件、一応解決。ふう、肩の荷が下りた。
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コメント
「雲 名称 明治 翻訳」で検索してみれば、そのへんの事情をまとめたサイトがあるんじゃないかなと思ったのですが、Googleでは残念な結果が……この記事がトップでした(笑)
投稿: 山辺響 | 2018年8月15日 10:29
山辺響 さん:
たった今、やってみたら、トップは 「坂の上の雲」の Wikipedia ページで、この記事は 2番目でした。このレスを付けたら、またトップに返り咲くかな (^o^)
投稿: tak | 2018年8月15日 19:24