東京医科大の 「女子一律減点」 から透けて見えてきた深層意識
例の東京医科大の 「女子受験者の一律減点」 という問題は、丈夫が取り柄で医者にあまり縁のない私としては「ちょっと別の世界のお話」という気がして無視してきた。しかしこれに関して 「女性医師の 6割が理解」(参照) というニュースを読んで、とたんに自分の守備範囲に入ってきたような気がしている。
まず、「なんだかなあ」という気がしたのは、西川史子という人(この人も医師らしい)が「医大の合格者操作は当たり前のこと」と発言したという記事(参照) を読んだ時だ。医大が女子の一律減点を行うのは、東京医科大に限らずどこでもやっていることで、それをしないと女子は優秀だから、合格者が女性ばかりになってしまうと言い、こう続ける。
「そうすると、世の中が眼科医と皮膚科医だらけになっちゃうんです。例えば股関節脱臼のケースなどで人の重たい部位を背負えるかといったら、女性では無理なんですよ。だから女性の外科医は少ない。やっぱり外科医になってくれるような男手が必要なんです。だから、男性と女性の比率等はちゃんと考えていないといけないんですよ」
下手するともっともらしく聞こえてしまうが、「世の中が眼科医と皮膚科医だけになる」なんてことは、市場原理から言ってもありえない。好きこのんでわざわざ競合の激しい分野に進むという人は多くないから、自然にある程度のバランスはとれるというのが、マーケットの常識というものである。
それに、「外科手術って、医者が 1人だけですると決まってるわけじゃあるまいよ」と指摘するだけでも、この論理はナンセンスになるだろう。力仕事はそばにいる看護師の手を借りればいいじゃないか。それに、外科医だってそんなにしょちゅう力仕事ばかりするわけじゃなく、ちょっとした怪我の傷口を縫う手術みたいなことも多いだろうよ。
「女性医師は結婚や出産で職場を離れることが多い」という理窟に対しても、「だったらどうして、看護師は女性ばっかりなんだ?」と言いたくなってしまう。これは結局、「元々女性を排除したいという男性論理から出た勝手な理窟」という側面が強いんじゃあるまいか。
誤解を招きやすい表現かもしれないが、女子の一律減点に理解を示す女性医師には、「私ってば、そんな逆境のはるか上を通って、スルッと合格したんだから、並みの合格点の女の子なんて、どうでもいいわ」とでもいうような、ちょっと嫌らしい優越感すら感じられても、仕方ないかもしれない。当人はそんなつもりじゃないのかもしれないが、深層意識まで踏み込んだら、まったくないとは言えないだろう。
上でリンクした記事には「背景に無力感か」というサブ見出しがついているが、無力感どころか「複雑な優越感」まで絡み合って問題をややこしくしていると、私は思ってしまう。
さらに私は、例の「LGBT には生産性がない」と言った杉田水脈という国会議員とも一脈通じるものを感じる。杉田氏はこの発言が報道されてからというもの、代議士という「オッサン社会」の中の「名誉男性」的な存在であると、あちこちで指摘された。
女性医師の中にも、意識しないうちに「オッサン社会の価値感」に染まって「名誉男性」化している人が結構多いんじゃあるまいか。これに関しては「もし間違ってたらゴメンね」と、いつでも謝っちゃう用意はあるが、「多分とんでもない見当外れではなかろう」という自信もある。
この辺りの複雑な感覚に関連するようなことを、河合薫さんが「日経ビジネス」に "東京医大事件と「女医と患者の死亡率」のねじれ ジェンダー・バイアスは組織の隅々まで" と題して書いている。なかなかおもしろい指摘なので、一読をオススメする。
そうそう、そういえば、「女性医師にかかる方が死亡率が低い」という研究があるんだった。先月 14日の「健康に良い食べ物と、悪い食べ物」という記事でも採り上げた、津川友介さんという方の研究によって明らかになったデータで、Diamond Onlineの "「死にたくなければ女医を選べ」 日本人の論文が米で大反響" という記事で紹介されているので、これも読んで見るといい。
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コメント
西川なにがしのお医者タレントさんの仰る通りであれば、「志」よりも「お医者の世界の利便性」が優先されているものと拝察する次第です。
今回の医大の下駄履かせが問題になってますが、「医大あるいは医学部をきちんと履修した人に、お医者になってもらいたい。」訳で、入りの素性は気にしなくても良いんじゃないですか?(反社会的とか性格に問題ある場合は御免被る)
3浪以上と女子は、入って履修することを、そもそも妨げられているので、「志」があっても叶いませんわなぁ。
「志」ある希望者をじゃんじゃか入れて、クオリファイ超えられない学生はじゃんじゃか留年させて、学費を納めさせた方が儲かるでぇ〜!
って、将来的にアタクシらの命を預けることになるかもしれないので、あんまりのアレな希望者は勘弁。
投稿: 乙痴庵 | 2018年8月11日 13:56
乙痴庵 さん:
>「志」ある希望者をじゃんじゃか入れて、クオリファイ超えられない学生はじゃんじゃか留年させて、学費を納めさせた方が儲かるでぇ〜!
なるほど、その手があるか (^o^)
投稿: tak | 2018年8月11日 21:28
「女性医師は結婚や出産で職場を離れることが多い」(A)についてはtakさんが反駁されているとおりなのですが、(A)を目にしたときの私の第一感は「辞める人が多いなら、その分、女性の医師をたくさん養成しないといけないのでは?」というものでした。まぁこれは養成のためのコストを考えると暴論なのかもしれませんが……。
投稿: 山辺響 | 2018年8月13日 10:13
山辺響 さん:
コストに関しては、上の乙痴庵さんのアイデアを借りて、學生を多く入学させ、入学金をどっさり取ればいいかもしれませんね。
投稿: tak | 2018年8月13日 10:43