3日前の「プサプサって何かと思っていたよ」という記事が想定とは別方向の反応を呼んでしまって、ちょっと戸惑っている。世の中には「マツキチ」と呼ばれるマツダ・ファンがかなりいるようで、あの CM のキャッチ、”ZOOM ZOOM" が「プサプサ」なんていう軽薄で無意味な音に聞こえてしまうなんて言うと、ずいぶん心外に思われてしまうことがあるようなのだ。

私としてはマツダのクルマをけなすつもりなんて毛頭なく、ただあの CM の "ZOOM ZOOM" という無声音の囁き声が「プサプサ」に聞こえてしまうという、単に音韻上の話を展開しただけなのである。クルマの良さとかいう話とはまったく無関係なのだ。
ところが世の中の多くの人は、あれが「プサプサ」に聞こえるなんて思いもよらず、額面通り "ZOOM ZOOM" と受け取っているようなのである。記事に付けられたコメントをみると、意外なことに「ネイティブスピーカーによる正しい英語の発音」の問題みたいに受け取られたフシがある。こんな具合である。
ネイティブスピーカーとは意思疎通が困難な者として、「プサプサ」って聞こえること自体、「へーそうなんやー!」と思うばかり
多分ネイティブが言っていると思うし、自分の耳の悪さを嘆きこそすれ、発音にケチをつけようなどとは夢にも思いませんでした。
わたしは 「ズーン・ズーン」 と聞こえます。。
少なくともプサプサの P の音も、S の音も入っているように感じないんですよね
とまあ、こんな感じで、私としては TV 画面に表示される "ZOOM ZOOM" の文字に、皆さんかなり引きずられてしまっておいでだなあと感じるのである。予断が入ってしまうと、人間の感覚というのは簡単に裏切られる。
実は「正しい英語」も「ネイティブスピーカー」もへったくれもない。あれは単に「プサプサ」に聞こえるというだけの話なのだ。ネイティブスピーカーと区別が付かない発音ぐらい、私がいつでもしてあげる。
同じように「プサプサ」に聞こえて気になってる人が他にもいないかと思い、ググってみたのだが、3日前には探し当てられず、記事中で 「みんな気にならないのかなあ?」 と書いてしまったが、沖縄県30代男 さんが、1つだけ見つけて知らせてくれた。Yahoo 知恵袋に次のような質問がある(参照)。
マツダ車 「アテンザ」 の TV CM の冒頭に女性の声で何と言っているのか理解できません。画面上「ZOOM」と言う単語と共に、何語で何と発音しているのですか。私には 「プサン プサン」 としか聞こえないのですが。
この人、画面上の ”ZOOM ZOOM" の文字をちゃんと見ているのに、それと気付かないのは、率直に言って「ちょっとなあ」と思ってしまうのだが、逆に言えば下手に気付かなかったからこそ、文字に引きずられずに、素直に耳に入った通りの音として認識したのだろう。私には「プサプサ」だが、この人には「プサン プサン」だったわけだ。確かにそうも聞こえる。
さらに「マツダ CM プサ」というキーサードでググると、「美貌録(備忘録) ZOOM ZOOM プサン プサン」というページも見つかった。なんだ、他にもちゃんと「プサ音」の聞こえてる人がいるじゃないか。
こんなこと、敢えて詳しく説明しなくても一目瞭然(いや 「一耳瞭然?」)と思っていたのだが、よほど文字に引きずられて耳に入った通りの音を認識しきれない人が多いみたいなので、前の記事のコメント欄で書いたことの繰り返しだが、無声音の囁き声による "ZOOM ZOOM" が「プサプサ」に聞こえるメカニズムを、改めてきちんと説明しておこう。こんな具合だ。
- "ZOOM ZOOM" が「プサプサ」 になってしまった最大の要因は、囁くような無声音(声帯を震わせない、息だけの音)を要求されたからだと思う。最初の "Z" 音を発音する際に、ことさら明瞭さを求められたためなのか、唇を閉じた状態から開くときに思わず僅かに息が漏れ、その瞬間に破裂音の無声音 ”P" が生じてしまっている。
これはあくまでも微かな子音のみの ”p” なので、母音を伴う ”pu” (プ) という音として認識しようとしても絶対に無理。それで、 「プ」の音は聞こえないなどと反応してしまう人が多い。カタカナの「プ」という文字にとらわれてしまうのだろうね。もう一度言うが、母音を伴う「プ」じゃなくて、微かな "p" という破裂音なのだ。
- それに続く "ZOOM" だが、無声音なので、”z" 音にはなりようがなく、あれで 「ズー」 に聞こえるというのは、論理的にあり得ない。よほど文字にとらわれているのだろう。同じ発音のメカニズムで声帯を震わせる有声音は "z" で、息だけの無声音は "s" になり、このケースは徹頭徹尾無声音なのだから、必然的に "z " ではなく "s" の音になる。
- 2番目の "z" 音も、口を閉じた ”m" から移行するために、最初同様に微かな破裂音の ”P" が発生し、”z" が ”s” 音になるという繰り返しで、その結果、続けて聞くと "psahmpsahm" (「プサプサ」 あるいは 「プサン プサン」) になる。念のため付け加えるが、ずべて息だけの無声音で、"a" も "m" も声帯は震わせない。
”ZOOM ZOOM” という意味のある文字の刷り込みから自由になって、初耳のつもりで無心に聞いてみればわかる。なんてことなくフツーに「プサプサ」(あるいは「プサン プサン」)なのだ。
あまり一生懸命に聞くと、つい無意識的に左脳による 「意味づけ欲求」 が働いて、聴覚から入ったナマの音で満足できずに、”ZOOM ZOOM” と聞こえたつもりになって安心してしまう。視覚で言えば、頭の中で余計な操作をしたせいで、実際の画像通りに見えない 「錯覚」 のようなものだ。

上図は有名な錯覚パターンだ。左右のパターンの真ん中の円は同じ大きさなのに、違って見える。目がこんなに簡単に騙されるのだから、耳だって騙されるのだね。
意味にとらわれずに無心に右脳で聞けば、「プサプサ」がわかる。それがわからなかったら、無心になりきれてないのだ。どうでもいいことに浮世の意味を求めすぎると、神経症になってしまうよ。ここは無念無想で「プサプサ」の世界に遊んでみよう。
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