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2018/10/24

「ハピネスの総量は一定」 という幻想

私の 10月 19日付の記事 "「夫婦別姓」 は、保守派にもメリットがあるだろうに" に、山辺響さんが注目すべきコメントをつけてくれた。「どうもゼロサムゲーム的な発想というか、『誰かが今よりも幸せになることは自分がそれだけ不幸になることだ』 と思ってしまう人がけっこういるんじゃないかと思います」 というのである。

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これ、鋭い指摘だと思う。仮に明日から夫婦別姓が可能な制度になったとしても、伝統的保守派に具体的な損害が及ぶわけではない。せいぜい慣れるまで違和感がつきまとうというだけの話だ。こんなことで 「精神的苦痛への慰謝料」 なんて請求する訴訟を起こしたとしても、到底勝ち目なんかない。

ところがこうした問題では、誰かの希望が叶ってハッピーになると、自分はその分だけアンハッピーになってしまうという考えをしてしまう傾向があるようなのだ。世の中の 「ハピネス」 の総量は一定で、人々はその取り合いをしているかのような発想が確かにある。これはもちろん無意識の産物、つまり 「幻想」 でしかないのだが、それだけに理性による解決が難しい。

たまたま東洋経済の本日付記事で、"地方を滅ぼす 「成功者への妬み」 のひどい構造  「3つのネチネチ」 で成功者はつぶされていく」 というのを読んだ。「まちビジネス事業家」 の木下斉氏が、地方の 「まちづくり」 ビジネスを滅ぼすのは、次の 「3つのネチネチ」 だと主張しているのである。

  1. 事業に予算をいれて潰す
  2. 事業を横取りして奪って潰す
  3. 風説の流布で人格否定をして潰す

ここではそれぞれの項目の説明をするスペースがないので、具体的な内容を知りたかったら、リンク先に飛んでもらうほかない。ただ、ざっと言ってしまえば、地方では成功しかけた者への 「妬み」 が生じやすく、その成功を広く共有するためにという 「一見美しい名目」 でスポイルしてしまうことがあるということだ。

行政が予算を付けて介入し、事業そのものを骨抜きにしてしまったり、「地域の共同事業化」 という名目で横取りしたり、甚だしくは、事業を始めた人に関する根も葉もない噂を流して人格否定してしまったりする。案外よく聞く話で、その結果、誰もハッピーにならない。

これらは根っこの部分から説き明かせば、「ハピネスの総量は一定だから、あいつの取り分が増えるだけこっちの取り分が減る」 というような、狭い了見から発することである。「これをきっかけにハピネスの総量を拡大させちゃおう」 という発想ができないために、その地域ではハピネスの総量が激減してしまうという結果を生じる。

今の世の中で必要なのは、「他者の幸福を祝福する」 という度量なのかもしれない。他者の幸福を祝福できるということは、自分の幸福でもあるのだ。米国の大統領のやり方なんかをみていると、その正反対の姿勢を感じてしまう。

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哲学・精神世界」カテゴリの記事

コメント

この記事の内容にはとても賛成です。なのですが。
前々から頭の片隅に引っかかっていることがありまして。

衣服や電気製品に顕著ですが(食品ならコーヒー豆など)、人件費の安い途上国で作られているからこそ、日本で安く買える製品というのは多いですよね。それによってたくさん買えたり他の物の購入に回せるお金が多くなり、結果として豊かになっていると言えると思います。

ということは、途上国が経済発展しないほうが日本人の生活は豊かであるなんてことになるんでしょうか?
途上国すべてが日本と同じくらいの給与水準になったら、日本人の生活は貧しく(つまりカツカツに)なってしまうのでしょうか?
もっと言えば日本が豊かでいられるには、途上国が貧しいままのほうが都合が良いのでしょうか?

こんな論理展開をしてしまい、これをスッキリと否定することが出来ず自己嫌悪に陥ってしまっています。
takさんはいかがお考えでしょうか。

投稿: らむね | 2018/10/25 02:12

→らむねさん、
takさんに対するお尋ねなのに横から口出しして恐縮ですが……。

たとえばアメリカのNIKEが、いわゆる「スウェットショップ」(開発途上国などでの搾取的な低賃金労働)問題で批判されたことがあります。

こうした批判に対する(新自由主義的な)反論として、

・できるだけ人件費の安い国を生産地に選んでいるのは事実である。
・それは価格を抑えてライバルとの競争に勝つためであり、したがって利益が目的であるというのも事実である。
・しかし、NIKEが現地の労働者に払っている賃金は、(米国よりはひどく安いけど)現地の平均的な賃金に比べればはるかに高い。
・したがってNIKE工場での雇用は現地の人たちに人気であり、彼らの生活水準の向上につながっている。
・その国の生活水準が上がれば人件費も上昇して旨みは減る。しかし、その国が豊かになった分、NIKEの商品の市場も拡大することになる。

……というのがありました(2000年代初頭に翻訳した本の受け売りです)。

つまり、開発途上国で生産した安い製品を先進国の消費者が買うのは、開発途上国も先進国も共に豊かになることなのだ、という理屈です。

賃金だけでなく労働時間や児童労働などの労働条件や、安全性・環境基準といった問題もありますが、それも同じ論法(「現地の平均的な水準に比べれば」)で対応できてしまいそうです。

これに対する有効な再反論もあるのだろうと思いますが、そのあたりはちゃんと勉強しておりません(たまたまその本の翻訳依頼が回ってきただけなので・笑)

もっともこれは2000年前後の話であって、最近ではユニクロに対するインドネシアの労働者からの抗議があるなど、事情が変わっているようでもありますが。
http://news.livedoor.com/article/detail/15452345/

投稿: 山辺響 | 2018/10/25 13:40

名古屋のラジオ番組のパーソナリティが、「幸せ一定量の法則」と言う自論を展開しておられます。

将棋の藤井7段がとても良い成績で「快進撃」を続けている側で…。
中日ドラゴンズはBクラス低迷…。
名古屋グランパスは降格圏で浮沈中…。

こうやって、世の中バランスが取れているのだなぁ。と言う、話のネタ的一席のお粗末。


しかしまぁ、ヒガミネタミソシリを用いて、いっときの「まったく根拠のない」自意識の維持に勤しまれる方のなんと多いことか。
最近よく思うことは、「オレは悪くない」と言う思いが強い人ほど、他人に対する姿勢が攻撃的になる様ですね。

投稿: 乙痴庵 | 2018/10/25 16:04

らむね さん:

>途上国すべてが日本と同じくらいの給与水準になったら、日本人の生活は貧しく(つまりカツカツに)なってしまうのでしょうか?

これこそが、「ハピネスの総量は一定」 という発想だと思うわけです。その時はその時で、何か新しい展開のないはずがないので、途上国が豊かになるのを恐れる必要はさらさらないと考えています。

それに、幸福の要因は 「モノ」 とか 「経済」 とかだけじゃないし。

投稿: tak | 2018/10/25 22:15

山辺響 さん:

お答え、ありがとうございます。

ある意味、ユニクロなど日本の企業はこのあたりの企業理念の提示において、脇が甘いなと感じるところです。

状況は常に動いているので、固定的な解答はあり得ないのかなと思っております。

投稿: tak | 2018/10/25 22:17

乙痴庵 さん:

名古屋の場合は、たまたまそのネタで言えてるってわけですね (^o^)

ネタとしては面白いと思います。

投稿: tak | 2018/10/25 22:19

以前にもご紹介したことがあるかもしれませんが、NZ国会で同性婚を認める法案が可決されたときの有名なスピーチがあります。「当事者にとっては素晴らしいことだが、それ以外の我々にとっては今までどおりの日々が続くだけ」(ハピネスの総量がちょっと増える)

https://youtu.be/UjkWwmW4PCg

(これは途中からですが、そこに至る前半 https://youtu.be/AiU70XHH1OY もけっこう面白い)

投稿: 山辺響 | 2018/10/26 10:23

山辺響さん:

素晴らしい。

日本の国会にもこんなスピーチのできる人が、1人でもいるといいのに!

投稿: tak | 2018/10/26 21:15

山辺響さん、takさん、お返事ありがとうございます。

山辺さんの例は企業から見てですよね。これはその通りだと思いますが、いち消費者の立場だと「安いものが買えない」というデメリットを感じたのです。
takさんのコメントも本文も良くわかるし同意できるのですが、なにぶん即物的な人間なもので、コトを「経済面」に限ってしまうと「誰かの得は誰かの損」に真理を感じてしまうのです。

それは例えば「コロンビアが先進国になればコーヒー豆が高価になり私が飲めるコーヒーは減る」であったり。
他にもそこかしこで「町おこし」をしていますが、「ある地域で観光発展が成功すれば、他の地域で観光客が減る」とか。
また「宅地開発と新規移住者の獲得に成功すれば、他の地域の人口減は加速する」とか。

いわゆる「パイの取り合い」でしょうか。
多分私の職業とも関係しています。
○○中学3年生130人のうち、A塾にx人、B塾にy人、私の勤めるC塾にz人、なんでそれしか取れないんだもっといい授業をしろ塾内を綺麗にしろ口コミを広めろチラシを作れとにかく生徒をあと5人増やせナンデモイイカラジブンデカンガエロヤルキアルノカ・・・・

すみません、愚痴でした。嫌な世の中です。
とはいえ夫婦別姓や同姓婚の件は、いったい誰が損をするのか見当もつかず、単に「俺様の価値観に合わないものが嫌い」という身勝手さを感じます。

投稿: らむね | 2018/10/28 20:40

らむね さん:

>それは例えば「コロンビアが先進国になればコーヒー豆が高価になり私が飲めるコーヒーは減る」であったり。

コーヒー豆の産地はコロンビアばかりではないので、コロンビア産のコーヒー豆が高価になれば、他の産地が取って代わります。多くの産地が経済発展してしまえば、より効率的な生産手法が開発されるでしょう。

こうした問題は、一本道の変化ではないので、その時々でいろいろな状況が生じると思います。その変化に対応して、何とかコーヒーを飲み続けるしかないでしょうね ^^;)

>他にもそこかしこで「町おこし」をしていますが、「ある地域で観光発展が成功すれば、他の地域で観光客が減る」とか。

1か所だけで観光が盛り上がるよりも、多くの観光地が盛り上がる方が、相乗効果が出ると思いますよ。多くの観光地が注目されれば、より広範囲の地域から観光客が来るでしょうし。

>また「宅地開発と新規移住者の獲得に成功すれば、他の地域の人口減は加速する」とか。

過疎地には過疎地の良さがあるので、無理に人口を増やさずに、観光産業で地域おこしをするという手もあるし。

「パイの取り合い」 をするより 「パイの拡大」 をする方が栄えるというのは、多くの事例が証明しています。

投稿: tak | 2018/10/28 21:56

takさん

どうもありがとうございます。
おっしゃる通りですね。もっと多面的な見方をできるように意識し、見聞を広めたいと思います。

投稿: らむね | 2018/10/28 23:16

らむね さん:

物理的なもの、つまり 「物質」 でないものの 「総量は一定」 と思い込むのは、そもそもの間違いの元と言っていいと思います。

投稿: tak | 2018/10/29 11:31

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