狸の書いた木葉経
先日、紬で有名な結城に行って、この町で一番大きな寺、弘経寺を詣でると、与謝蕪村の句碑があった。江戸時代の結城には砂岡雁宕(いさおかがんとう)という著名な俳人があり、その当時に与謝蕪村が彼を頼って訪れ、弘経寺に滞在したという縁があるのだそうだ。
で、問題の句碑だが、ものすごくダイナミックで、碑からはみ出しそうな字である。最初の文字の判読に苦労したが、どうやら「肌」という字のようで、「肌寒し己が毛を噛む木葉経」と読める。何だか意味がわからない判じ物みたいな句だ。
で、この土地でボランティア・ガイドをしている人に聞いてみると、次のようなことだった。
まず「木葉経」というのは、その昔、紙が貴重品だった頃に木の葉に写経したものという。「このはきょう」または「もくばぎょう」と読むそうだ。そしてこの句は、その昔、狸が僧侶に化けてこの寺で仏道修行をしていたという言い伝えに基づいている。
冬の寒い日に木の葉に写経していると、深々と冷えてきて、筆先も凍り付きはしないまでも硬くなって文字が書きづらくなる。その度に、口に含んで噛み、柔らかくしなければならなかった。ところが筆の穂先というのは、狸の尻尾の毛を使うのが一般的だったので、僧侶に化けた狸が穂先を噛むというのは、自分の尻尾を噛むようなものである。この句はその面白みを表現している。
で、この時の木葉経は弘経寺に残っているらしいのだが、住職以外の者がそれを見ると目が潰れると言い伝えられるため、公開されていないのだそうだ。しかし、江戸期の葉っぱはいくら何でも朽ち果ててしまっているだろうから、あくまでも「言い伝え」として受け取っておけばいいだろう。
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