日本人が電車で席を譲らないのは
日本人は電車内で立っている老人を見かけてもなかなか席を譲らないというのが、たびたび問題にされる。私は決して世界中を旅しているわけじゃないけど、立っている老人をこれほど露骨に無視し続けられる国というのは、世界でも珍しいんじゃないかと思っている。だからことさらに「優先席」 なんてのが必要になるわけなのだね。

いろいろなところで「どうして席を譲らないのか」というのが話題になっているが、一番目に付く言い訳はいつも「周りの目が気になって、席を譲るのが恥ずかしい」というものだ。私なんか既に前期高齢者の年齢に達しているが、幸か不幸か見かけが若いものだから、近くにいかにも哀れっぽい老人が立っていたりすると座っている方がずっと恥ずかしくて、さっさと席を譲ってしまうがなあ。
そして立ち上がってから改めて座っている乗客を見ると、大抵私よりずっと若い連中ばかりなのだ。そこで「お前ら、よく恥ずかしくないなあ!」と言いたくなるのを、ぐっと堪えるのが常である。
私は日本人が席を譲りたがらないのには、「譲るのが恥ずかしい」なんて表面的なものよりずっと根の深い別の理由があると見ている。そのヒントとなるのが、こんなエスニックジョークだ。
大型客船が沈没しかけているのだが、婦人と子どもを優先するとどうしても救命ボートの数が足りない。そこで男の乗客に自発的に海に飛び込ませるために、船長はこんなふうに言う。
イギリス人に向かっては、「あなた達は紳士ですから、飛び込めますよね」
アメリカ人に向かっては、「あなた達こそ真のヒーローです」
ドイツ人に向かっては、「これはルールです」
そして最後に日本人に、「皆さん、そうしてらっしゃいますから …… 」
つまり多くの日本人は、「皆さん、そうしてらっしゃる」のを目の当たりにしないと、自分からはなかなか動かない。そして一度「皆さん、そうしてらっしゃる」のを確認してしまうと、是も非もなくぞろぞろ素直に従うのである。
ところが電車内で 1人の老人に席を譲るのは、1人が席を立ちさえすればいい。何人も続いてぞろぞろ立ち上がる必要はないので、「皆さん、そうしてらっしゃいますから」という行動原理が成立しない。これが「日本人が席を譲らない」ことの根本的な理由である。
席を譲るというのは要するに「早い者勝ち」の世界なのだが、この「早い者勝ち」というのが、日本人は決定的に苦手なのだ。下手すると「ええ格好しい」とか「抜け駆け」に思われてしまうので、とことんためらってしまう。
「隣百姓気質」という言い方がある。隣が種を蒔けば自分も種を蒔き、隣が草取りをすれば自分も草取りをし、隣が刈り入れをすれば自分も刈り入れをする。自分で能動的に考えてやってるわけじゃない。
日本人の行動原理はこの「隣百姓気質」にあると、私は思っている。だから何かの弾みで皆が一斉にやり始めると、世界が驚くほどの大きな動きになるが、1人がさっさとやりさえすれば簡単にコトは済むというようなケースでは誰も「その 1人」になりたがらず、なかなかコトが済まない。
1人でさっさとコトを済ませたがる私みたいなのは、日本社会ではどうしても「変人」扱いされてしまうのだよね。ちょくちょく米国出張していた若い頃、ニューヨークなんか今よりずっと治安が悪かったが、日本のオッサンたちと付き合っているよりずっとストレスがなかったのを覚えている。
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コメント
横浜市営地下鉄は、「全席優先席」としています。
こんなことを宣言しなくても「全席優先席」なんですけどね。
でもこんな老人にはなりたくないなあ
https://www.youtube.com/watch?v=A1BozLZundY
投稿: ハマッコー | 2019年3月25日 01:45
ハマッコー さん:
リンク先の動画、どっちもどっちですね。
ただ、私としては優先席で座り続ける図々しさはないなあ (^o^)
投稿: tak | 2019年3月25日 14:08