雪平鍋? 行平鍋?
唐突だが、鍋の話題である。鍋と言っても「鍋物」ではなく、さらにそれに使う土鍋のことでもなく、いわゆる「雪平鍋」、あの周りにボコボコした打ち出しみたいな凹凸のある小さめの片手鍋の話だ。
実は私はこの鍋のことをずっと「行平鍋」と書くのだと思っていた。百人一首で「立ち別れいなばの山のみねにおふるまつとし聞かば今帰り来む」の歌で知られる、あの在原行平である。ところが ATOK で変換させると「雪平鍋」となり、「行平鍋」というのもないではないが、順位がずっと低い。いやはや、私は今日の今日まで「雪平鍋」なんて表記はちっとも知らなかった。
で、どっちが正統的表記なんだろうと調べてみると、どうやらどちらも正しいらしい。2通りの表記があるということのようなのだ。
しつこく調べてみると、「由来・語源辞典」というサイトでは「雪平鍋の由来・語源」として「平安時代の歌人、在原業平の兄である行平が、須磨で海女に海水を汲ませて塩を焼いたという故事にちなんでの名で、もとは塩を焼くのに用いた」とあるだけ(参照)で、「雪平鍋」と書かれる理由はちっとも説明されていない。これを書いた人は自分で気持ち悪くならなかったのかなあ。
この点に関して、「釜浅商店」という店のサイトでは、在原行平が須磨に流された時に「その島で塩を鍋で作り、そのできた塩が雪のようであった」とし、「それにより、その在原行平から『行平鍋』、また雪の様な塩が出来た事から『雪平鍋』とも言われるようになった」とある (参照)。うん、これはもっともらしい。
また Daily House Chore というサイトには、「在原行平説」のほかに 「鍋の強度を上げるために周囲に付けられた打ち出しの模様が雪に見えたことから『雪平鍋』という名が付いたという説もあります」と書かれている(参照)。ふうむ、いずれにしても日本人はどうしても「行平」を風流に「雪平」と表記したかったようなのだね。
さらにこのサイトには、雪平鍋はもとは厚手の土鍋だったという記述があり、蓋がないのは、今の雪平鍋は熱伝導のいいアルミ製が多いので火の通りがよく、蓋が要らないからだとある。さらに、アルミは柔らかく凹みやすいので、周囲に打ち出しの凹凸を淹れて強度を上げているとしている。なるほど。
それにしても、ごく普通の日用品の名前というだけでも、いくつになっても知らないことって結構あるものだ。
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コメント
内田百閒著「百鬼園随筆」中の「虎列刺」によると
「田舎の海水浴旅館の二階に虎列刺が出来たらしい」騒ぎのために「二階から水がこぼれてきて」、泊まっていた一家は「雪平鍋とお米を少し」持って逃げたさうです。理由は「途中でお腹がすいた時。困る」からだそうです。
以上、現場からお伝えしました(おいおい
投稿: 萩原下衆兵衛 | 2019年4月16日 21:31
萩原下衆兵衛 さん:
「虎列刺」ですか。これって、「コレラ」ですよね。
明治大正の頃はこう書いたのかなあと思って一応調べてみたら、『百鬼園随筆』は昭和 8年の刊行だそうで、さすが内田百閒先生、古い表記にこだわってたんでしょうね。
それにしても、コレラの発生した宿屋から米と雪平鍋持って逃げたら、それで感染しちゃうかもしれないと思わなかったかなあ ^^;)
投稿: tak | 2019年4月17日 17:59
煮れば大丈夫と思ったのでせう( ̄▽ ̄)( ̄▽ ̄)
投稿: 萩原下衆兵衛 | 2019年4月17日 22:07
萩原下衆兵衛 さん:
なるほど、それは最強かも (^o^)
投稿: tak | 2019年4月18日 06:15
http://kanpoken.pref.yamaguchi.lg.jp/jyoho/page5-6.html
↑上の情報源によれば、コレラの消毒は「80℃・10分間の熱水」が有効とのことで有ります。(←調べたんかい)
で、なんの話でしたっけ?(おいおい
投稿: 辺境の黒兎男爵 | 2019年4月18日 08:48
辺境の黒兎男爵 さん:
雪平鍋の話が、コレラの消毒になってしまった ^^;)
投稿: tak | 2019年4月19日 08:12