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2019年7月17日

ファンタスティック過ぎる英語教材

「短期間でラクに英語がペラペラになる」という通信教育というのは、「スピードラーニング」の昔から(あるいはそれ以前から)アヤシすぎるものと相場が決まっている【参照 1: "「聞き流すだけ」 というおとぎ話"、参照 2: "東京オリンピックと、英会話熱と、当たり前すぎるお話")が、「アヤシすぎる」どころか「ファンタスティックすぎる」広告を見て、一瞬啞然としてしまった。

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まあ、固有名詞を出してもいいと思うので書いちゃうが、"i-smile" という名の教材で、これの運営会社、最近盛んにネット広告を打っている(参照)。「たった 2ヶ月で英語ペラペラに !?」というキャッチ・コピーで、最後の「!?」といのは、一体何の逃げ道なのかと思ってしまうところだ。

この広告のマンガに出てくる若い女の子は、海外旅行の入国手続きで "Have a nice day." と言われて「幅ないっすね」に聞こえ、何か悪口を言われたのかと悩んでしまうほど英語ができない。そして海外旅行を全然楽しむことができなかったために、一念発起して勉強を始める。

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ただこの広告ストーリー、"Have a nice day" すらまともに聞き取れない女の子が 1人で海外旅行するというシチュエーションに、ちょっと無理があるだろう。フツーはパッケージツァーに加わって添乗員やガイドさんに頼り切り、あまり悩むことなく楽しむと思うがなあ。

それにそもそも日帰り旅行じゃないだろうから、入国手続きのオニイサンも "Have a nice day" じゃなく "Have nice days." と複数形で言うか、「いいご旅行を」という日本語を生かすなら "Have a nice trip" となるはずだが、この英会話教材会社、そのあたりの細かいところはちっとも気にしない社風のようだ。専門分野がこんな程度で大丈夫なのかなあと思うよね。

そしてストーリーは、毎日何分間だか動画を見るという学習で「英語がバッチリ聞き取れるし、話せるようになれたんです」ということになる。そして一番上に掲げた画像で意気揚々としゃべっているのが、これだ。「何じゃ、こりゃ?」と思われるだろうが、何ならスクロールして戻って確認してもらいたい。

"Even a train can go on a bus, but where do you go?"

先に浮かんだ「大丈夫なのかなあ」との思いは、ここで決定的になる。今朝これをネタにして tweet したところ、英語翻訳のプロ、ふゆひー さんが「この英語、どう訳せばいいのか分りません (笑)」と返信してくれた(参照)。私なら

「列車さえもバスに乗って行けますが、あなたはどこに行きますか?」

と直訳して済ませて、それ以上は責任もたない。「どういう意味?」と聞かれたら、「それは私じゃなく、この女の子に聞いてくれ」と答えるしかない。

この教材会社、自社広告のチェックをしなかったのか、しても「???」となることなくフツーに OK を出したのか、あるいは要するに、この広告全体が(出来の悪い)ジョークなのか。いずれにしても、この教材で勉強したらさぞかしファンタスティックな英語をしゃべるようになるだろうと思ってしまうのである。

【2020年 4月 30日 追記】

書き忘れていたが、私がこの記事を発表して暫くすると、問題の広告の女の子のセリフが ”You can take a bus or train to go to Asakusa." に変更されていた。まあ、これにしてもあまり役に立たない情報ではあるが。

 

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コメント

英語であることを無視して気持ちを察してあげれば、「電車でもバスでも行けますが、どちらにいらっしゃるのですか」……いや、行き先が分らないと、電車でもバスでも行けるかどうか判断できないよなぁ……。

投稿: 山辺響 | 2019年7月17日 12:38

山辺響 さん:

いずれにしても、元の日本語で何を考えていたのかがわからないので、一歩も先に進めませんね ^^;)

投稿: tak | 2019年7月17日 15:09

最近は、この教材を二週間使ったらTOEICの点数が200点から一気に900点台に上がったなんて大胆な広告が目につきますね。そんなのあり得ない。
ばかばかしいので広告文は読んでない。
こんな広告文は多分規制の対象でしょう。

テレビも含めていまは極端な効果を強調する広告が多すぎる。
これを使ったら二週間で10kg減量したとか腹回りが10cm減ったとか。広告業界はやりたい放題ですね。


投稿: ハマッコー | 2019年7月18日 07:02

山辺響 さん:

同じネット広告がまた表示されたので、改めてゆっくり確認してみました。ついでに URL も控えました。

http://globaleigo.com/man0628/

若いおにいちゃんに "Excuse me. I want to go to Asakusa." と言われて、

"Even a train can go on a bus, but where do you go?" と返したもののようです。

「浅草に行きたい」と言われているのに、まともに聞き取れなかったわけですね。

いずれにしても英会話教材の広告のくせに、下手な英語にメチャクチャな英語で返すという、妙なことになっています。

コンテぐらいは実際に英語指導をしているスタッフが作成すればよかったのに、マンガ家に任せっきりだったようですね。

投稿: tak | 2019年7月18日 14:26

ハマッコー さん:

確かに英会話教材とダイエットの広告は、アヤシすぎが多いですね。

「楽して英語が話せるようになりたい」「楽して痩せたい」というニーズを反映しているものと思われます。

要するに、ニーズ自体が無茶というわけですね ^^;)

投稿: tak | 2019年7月18日 14:33

これは・・・
この女性の言っている英語は意味が通らないし、外国人男性の言っていることもわかっていない・・・
つまり「たった2カ月で」はその程度ですよ、と暗に示している・・・?(笑)

投稿: らむね | 2019年7月19日 10:20

らむね さん:

本当は「たった 2ヶ月」ではなく、この広告を作成したスタッフも、高校まで行ったとすれば 6年間も英語を勉強しているはずなんですが、この程度のことをチェックできないんですね。

この国の英語教育が失敗していることを、如実に示しています。

それだからこそ、「たった 2ヶ月でペラペラになる」なんていうおとぎ話が大手を振って歩くことになるんでしょうね。

投稿: tak | 2019年7月19日 10:47

You can go there either by train or by bus, but where in Asakusa do you want to go specifically?

くらいでしょうか?

社内で、日本人社員が英訳したものにネイティブスピーカーが赤を入れているのを見ていると、だいたい冠詞か前置詞を直していることが多いようです。

投稿: 山辺響 | 2019年7月19日 16:10

山辺響 さん:

なんと親切な!

ただ、私としては "train" と言わずに "subway" としたいところです ^^;)

つくばエクスプレス(TX)は地下鉄扱いじゃないですが、浅草演芸ホールに行きたい場合は、TX 浅草駅の真上ですから最も便利で、秋葉原から浅草までは地下ですから "subway" と言って問題ないと思います。

ただ日本語ができないと、浅草演芸ホールに行っても、手品などの色物以外は楽しめないでしょうね ^^;)

投稿: tak | 2019年7月19日 17:00

この英語教材の会社も、ようやく恥ずかしすぎる間違いに気付いたようで、最近は例の女の子の台詞が訂正され、

You can take a bus or train to go to Asakusa.

になっているのに気付いた。

ただ、以前の間違いはこの記事でしっかり記録されちゃってるので、完全に消えてしまったわけじゃない。残念ながら。

投稿: tak | 2019年8月20日 06:03

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