一膳の箸で片方は浮き、片方は沈むことに関するメンタリティの違い
昔から不思議に思っていたことだが、箸、とくに塗り箸は、同じ一膳の箸でも片方が水に浮き、片方が沈む場合が多い。我が家の場合はもっぱら白木のままか、薄塗りで白木の風情を残した箸を使っているのであまり気にならないのけれど、最近頂いた塗り箸は、やはり片方が水に浮き、片方が沈む。
というわけで、私は「塗り箸の職人は、一膳の箸でも片方が沈み、もう片方は浮くように細工しているのだ」と思っていた。どういう理由か知らないが、何かフォークロア的な謂われでもあるのだろうと。「箸というのは、陰と陽の組み合わせである」みたいなね。
何しろ細かいところまでこだわり抜く日本の職人のことだから、フツーに考えれば一揃いの箸の片方が水に浮き、他方は沈むというような、一見「不細工」に見えるようなままで世に出すとは思われない。そこには何かの意図があると思うのが自然ではないか。
ついさっき、ふと思いついてこれに関して調べてみようと、「箸/片方が沈む」というキーワードでググって見ると、数は少ないが同じ疑問を持つ人がいるようだ。Q&A のサイトに「なぜ片方だけ浮いて片方は沈むのでしょうか?」というような質問がいくつか挙げられている。(参照)
それらの質問への解答を見ると、言い方は少しずつ違うものの、煎じ詰めればことごとく「比重の違いです」ということに集約されるのである。私はこうした解答者のあまりにもシンプルなメンタリティに、啞然としてしまった。
水に浮くか沈むかというのが「比重の違い」であるというのは、当たり前すぎて言うまでもないことである。それは「理由」というよりは「浮き沈み」を「比重の違い」と言い換えたに過ぎない。
「どうして木は水に浮いて、石は沈むんですか?」という質問になら、単純物理で「比重の違い」という答え方をしてもいいだろうが、この場合は違う。質問者はあくまで「箸」という特定のモノに関して聞いているのだから、そこに質問のキモがあるはずだ。
「比重の違いです」というのは例えて言えば、「どうして信号の色は、赤、緑、黄なんですか?」という質問に「光の波長の違いです」と答えるようなものだ。「どうして信号はこの 3色に決められたんですか?」と聞きたがっている質問者に単純物理で答えたら、「お前は何もわかっとらんな!」と言いたくなる。
で、こうした「何もわかっとらんな!」というような解答で、質問者自身も何だか納得してしまったような気になって御礼を述べているということにも、私はモヤモヤした気分になってしまう。自分が何について聞いたのか、明確にわかっていないようなのだ。
で、インターネットをざっと見た結果では、箸の浮き沈みに特別な意図や謂われがあるというような記述は見当たらなかった。たまたま比重の違う箸の組み合わせになっている場合が多いだけということのようなのである。
どうやら私は深読みしすぎていたようだ。「だったら、『比重の違い』という単純な説明でいいではないか」と言われそうだが、そこはそれ、「作成過程では特別な意図はなく、たまたまそうなっているだけに過ぎない」というような説明も、念のため入れてもらいたいところである。
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コメント
もしかして、ちゃんとした職人さんは
途中の工程に水に入れて確かめる工程を
入れているかも
投稿: おおる | 2019年10月23日 09:08
おおる さん:
やっぱり、「一膳の箸は、陰陽の組み合わせである」との密かなこだわりがあったりして (^o^)
投稿: tak | 2019年10月23日 20:53
一度注意して観察していただきたいのですが、大切なのは「常に同じ片方が沈む」のではないという点です。どちらかがたまたま「比重が大きい」のではなく、一方が沈むからこそ他方が浮く、という仕組みになっています。
箸というのは当然ながら2本1組で作られ&使われるものであり、2本の重心が一定とまでは言わずとも、ある程度安定していなければ非常に使いにくいものになることは容易に察していただけるでしょう。したがって、完全に分離されているように見える2本の箸でも、互いに通じ合うものがあり、一方が沈めば他方はなるべく重心を動かさないよう、バランスを取ろうとして浮くわけです。当然ながら、どちらが先に沈むかによって、逆の場合もありえます。たとえて言えば、シーソーの中央付近に乗った2人のうち、一方が少し端の方に動けば、他方も同じくらい反対に動かなければバランスが保てないのと一緒です。
ですから、見た目が同じであっても、2組の箸から1本ずつを取って水に投じれば、そこでは互いの関係性が成立していませんから、2本とも沈んだり、逆に2本とも浮いたりということがあります。ただしこれも、その2本を1組としてしばらく使っていれば(最初は使いにくいですが)、徐々に関係性が確立されて、一方が浮き他方が沈むという現象が生じるようになります。
(こういう与太話をすらすらと考えつくメンタリティもどうかと思いますが)
投稿: 山辺響 | 2019年10月24日 11:15
山辺響 さん:
一膳の箸の片方に何らかの印をつけていないことには、確信をもって語れない話ですね。
「私は印を付けて常に観察しているからこそ、この結論に辿り着いた」と、高らかに宣言したらみんな信じてしまうかも (^o^)
投稿: tak | 2019年10月24日 13:39
箸職人が故意にそのように作っているというのが正解だとしても、「2組の箸から1本ずつ取って試すと、両方とも沈んだり両方とも浮く場合がある」は成立するわけで、ちゃんと騙されてくれるかも(笑)
投稿: 山辺響 | 2019年10月25日 17:14
山辺響 さん:
なるほど。
そこまで煮詰めると、来年の 4月 1日まで取っておきたかったネタになりますね (^o^)
投稿: tak | 2019年10月25日 19:58
はじめまして。
いつもブログを興味深く見させていただいております。
日ごろ面白い思いをさせてもらっている恩返しとして、tak様の“モヤモヤ”を少しでも解消できればと思いコメントさせていただきます。
(どういうわけか、こちらのブログ、というかココログが弊社のシステム管理者から“会社で見てはいけないサイト”に指定されているらしく、仕事の合間には見られず気が付いたときに家で見ていますので、少し前の記事へのコメントとなってしまいました)
Q&Aサイトには、質問に対する回答の中から、一番役に立った回答を“ベストアンサー”として選出する機能があります。
自分の回答がベストアンサーを多くもらうと、サービスによりますが名前に“カテゴリマスター”とついたり、ランキングが上がったりという名誉や、商品券とか電子マネーとか提携店の優待といった実利的なメリット(いちいち回答を書き込む労力に比べたらお小遣い稼ぎにもならない程度ですが)があります。
そして、こういったサイトには、上記の名誉やメリットがモチベーションになっている“ベストアンサー狙い”の人がいます。
何も回答しないよりは、「○○で困っています」という質問に対して「わかります。私も○○です。大変ですよね」とか「比重の違いです」とかいうだけの回答をして、少しでもベストアンサーをもらえる確率を上げようというわけです。回答しなければ確率は0ですから。
「では、質問をしておいて、納得できる答えが出るまで放っておくか、質問を取り消すか、納得できない答えにはベストアンサーを与えなければいい」となりそうなところですが、そういう質問者は“放置”と呼んで嫌われます。特にベストアンサー狙いの人からは。
それこそそのサイト内で「放置する質問者にどんな対策が有効でしょうか」なんて質問がたくさんあります。
ごくまれにですが、直接文句を言う人もいます。数回ですが、ある質問への回答として、質問者に「あなたは以前○○について質問をして、回答してくれた人がいたにもかかわらず、ベストアンサーを選びませんでしたね。こんな質問をする前にそっちを先に片付けなさい」というようなことを言っているのを見たことがあります。
なので、質問者としても、求めた答えではないけど、これ以上待ってもマシな答えは出なそうだ。面倒なことになるくらいなら、適当な回答にベストアンサーをつけて終わらせてしまえという場合があるわけです。
長々と書いてしまいました。
あくまで私が今までQ&Aサイトを見てきた感覚と実際の書き込み内容からの推論にすぎませんし、今回の文中で言及されている人が全員上記のような人とは断言できませんが、今回取り上げられているような質問は、内容からしてベストアンサー狙いの書き逃げが発生しやすそうな気がします(はっきりとした原因はないけれど、自分の持っている知識で形だけ回答の体をした内容が書ける人が多そうという意味です)。
「ああいうやりとりをするのはそんな理由があるのかもしれない」と、少しでもモヤモヤが晴れれば嬉しいです。
まあ、それに代わって「世の中にはそんなみみっちいヒマ人がいるのか…」と別の感情が出てしまうかもしれませんが…
投稿: がな | 2019年11月 5日 00:18
がな さん:
へえ! そういう事情があるんですか。ちっとも知りませんでした。
いずれにしても、そんなところで質問するより自分で調べる方が役に立ちそうですね。
それから、私のブログが “会社で見てはいけないサイト” に指定されているとは、ちょっと驚きました。そんなに有害なことを書いているつもりはないんですけどねえ。
というわけで、「一度読み始めたら止められなくなって、仕事に差し障りが出るブログだから、会社では見ないように」ということなのだと、チョー自分本位に解釈して解決することにしました (^o^)
ありがとうございました。
投稿: tak | 2019年11月 5日 07:08