慣用句の意味を誤解する傾向
文化庁の 2018年度国語に関する世論調査の結果が発表された、それによると、「ぶぜん」「砂をかむよう」という慣用句を半分以上の人が本来と違う意味でとらえていたという(参照)。文化庁のこの調査に関しては、過去にも何度かいちゃもんを付けたが、今回もちょっと書かせていただく。
記事によると、「ぶぜん(憮然)」という言葉は本来は「失望してぼんやりする様子」を表しているのだが、正解率は 28.1%に留まり、「腹を立てている様子」という解答が 56.7%と、半数以上になった。ただし 07年調査との比較では、「失望してぼんやり」という正解率が 11ポイント増加し、「原を立てている様子」という解答は 14ポイント減っている。
ということは、11年前は「ぶぜん」という言葉の誤解傾向はより強かったが、最近は少しはマシになってきたというわけだ。ただしこれは、以前は「腹を立てている」という意味で「ぶぜん」という言葉を使う人が多かったので誤解が広まっていたが、最近はこの言葉自体があまり使われなくなったたということのようにも思われる。
ただ、「ぶぜん」の意味として「失望してぼんやりする様子」というのは、ややニュアンス的に違和感があるような気がする。『大辞林』で調べると「ぶぜん」は次のように出てくる。
① 思い通りにならなくて不満なさま
② 落胆するさま
③ 事の意外さに驚くさま
第一義の 「不満なさま」というのが、ややもすると「腹を立てている様子」と誤解されてしまう元になっていたのではなかろうか。つまりちょっと「むっとしている」といったような感覚が、立腹状態とそれほど遠くないと思われていたのだと思う。
「砂をかむよう」というのは、60年代末に流行った『受験生ブルース』(中川五郎・作詞)に出てくる。
おいで皆さん 聞いとくれ
ボクは悲しい 受験生
砂を噛むよな 味気ない
ボクの話を 聞いとくれ
(ただし、オリジナル・バージョンはこちら)
これを知っていれば、正しい意味が理解されるはずだが、砂を嚙んでジャリジャリ歯ぎしりするみたいな感覚が、「口惜しくてたまらない様子」という誤解につながっているのだろう。
そして「御の字」というのは、元は遊里言葉で「御」の字を付けたくなるなるほど結構な人や物ということなので、「大いにありがたい」になるのだろうが、これも単純にそう言ってしまうと、ニュアンス的にどうかという場合がある。今の時代では、この言葉の裏に元々潜んでいたやや皮肉っぽい感覚が見え隠れすることがある。
時代とともに少しずつ言葉のニュアンスが変わってくるというのは、あってもいいことだと思う。文化庁の解釈がちょっと公式的すぎて、この調査自体が「少々古くさい」ものと受け取られることになってしまうかもしれない。
ちなみに、以下は私が文科省のこの調査に関して、過去につけたいちゃもんの代表的な記事である。
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コメント
せいぜい「身の丈にあった」国語力が、上の方から求められているのでしょう。
マジマンジ〜!
(身の丈に合ってない言葉を使用いたしました)
投稿: 乙痴庵 | 2019年10月30日 18:34
乙痴庵 さん:
わはは (^o^)
投稿: tak | 2019年10月30日 19:10