「旗」と「幟(のぼり)」の違いと、「旗」の語源
昨日は「裏返し幟」のイライラ感について述べたが、ところで「旗」と「幟(のぼり)」の違いをご存じだろうか。調べてみると、「旗」というのは下の左側の万国旗のように、風がなければしなだれ、風が吹いた時にパタパタとはためくものなのだ。
一方、「幟(一応「幟旗(のぼりばた)ともいう)」というのは、上の右側の写真のように、逆 L 字型に組まれた棹に上辺と片側が固定されていて、風がなくてもしなだれないようになっている。なるほどね。で、街中の店頭などでよく見かけるのは「幟」が圧倒的に多い。
ところで「旗がはためく」で思い出したが、「旗」の語源は風ではためく際の「パタパタ」という擬音語だというのが最も有力な説である。「はた」と「パタパタ」じゃ違う音だろうと思われるかも知れないが、奈良時代以前の日本語では「ハ行」の音は「P 音」で発音されていたということが、音韻学の研究で明らかにされている。
要するに「旗」という言葉の成立時点では、「パタパタ」いうから「ぱた(pata)」という名詞になって、動詞は「ぱためく(patameku)」だったわけね。大昔のことだけに、大らかで単純な発想だったのだ。
後に「ハ行」は「F 音」に変わり、今は 「H 音」に変化した。ただ、「ふ」だけは例外的に「F 音」のまま残っている(英語の F とは発音のメカニズムが違うが)わけだが。
まあ、最近は「旗が『はたはたと』はためく」なんていう言い方も一般的になってきたが、これは「旗」を「はた」と発音することが定着してからのつじつま合わせみたいなものだろう。あれってどう聞いても「はたはた」というよりは「ぱたぱた」という方がリアルでしっくりくるよね。
ついでに言うと、「か」も奈良時代頃までは「くゎ」と発音されていた。庄内の田舎で生まれて死んだ私の祖母などは、奈良時代の発音を昭和の御代にまで残していた人で、「『くゎじ』出さねよ、『ふぃ』 さ、気ぃ付けれ」 (火事を出さないよう、火に気をつけろ)と言っていたものだ。
これについては 14年近くも前に「現代の奥に潜む古代」という記事で詳しく触れているので、ご一読いただきたい。要するに私は幼い頃、日常生活の中で「生きたフォークロア」と家族として濃密に接していたのである。
ちなみに、棹に固定するために幟に付けられた輪の形の布は、「乳」と言って、昔は幟のことを「乳付き旗(ちつきばた)」と言ったらしい。なんでまたこれが「乳」なのかは、「犬の乳のように一定間隔で並んでいるから」なんて言われているが、ちょっと無理があるような気もする。
旗とか幟とかにこだわると、そこはかとなく日本文化の「闇」を見る思いがしてしまうなあ。
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