正座と胡座(あぐら)
「知識連鎖」に「正座の由来は格下の座り方 歴史的にはあぐらが古く千利休もあぐらだった」(7月 7日付)という記事がある。下の画像を見ればわかるように、千利休は確かにあぐらで座っている。
Wikipadia の「正座」の項にはm次のようにある (参照)。
正座とは、元々、神道での神、仏教で仏像を拝む場合や、征夷大将軍にひれ伏す場合にのみとられた姿勢であった。日常の座法は武士、女性、茶人などでも胡座(あぐら)、立膝で座る事が普通であった。
平安装束に見られる十二単や神職の袍は、下半身の装束が大きく作られており、正座には不向きで、あぐらを組むことを前提に作られている。
江戸時代初期、正座の広まった要因としては、江戸幕府が小笠原流礼法を採用した際に参勤交代の制定より、全国から集められた大名達が全員将軍に向かって正座をする事が決められ、それが各大名の領土へと広まった事が一つ。また、別の要因として、この時代、庶民に畳が普及し始めた頃であったことも要因であるという。
なるほど。正座というのは、将軍に相対する時の姿勢が広まったもので、さらに畳の普及と切り離せないようだ。上の図のように、エラい人が半畳分ぐらいの座に胡座をかいているのに、いくら下座の者と言っても、堅い木の床の上に正座しろというのは気の毒過ぎるだろう。
ただ、椅子に腰かける姿勢に慣れてしまった今となっては、畳の上の正座も足がしびれてキツいが、胡座も案外しんどい。長く座っていると腰が痛くなってしまうのである。
胡座というのは、どうしても背中が丸まってしまう。背筋を伸ばして胡座をかこうとすると、正座よりも辛くなってしまう。そんなことも、江戸時代以後は正座の方が文字通り「正しい座り方」となってしまった由縁だろう。
さらに今となっては、長時間の仕事をしようとしたら椅子でないともたない。座卓で仕事をするなんて御免こうむりたいが、明治の頃はあの夏目漱石も胡座で座卓に向かい、『我が輩は猫である』を執筆していたもののようだ(参照)。
それにしても、明治の文豪の机の上(のみならず床の上も)って、とんでもない乱雑さである。あるいはこれ、一種の演出なのかなあ。
【7月 9日 追記】
小説家の書斎の乱雑さは明治の文豪に限らないようだ。その中でもトップは昭和の坂口安吾かもしれない。これは終戦直後の 1946年の写真だが、こちら を読めば演出でもなんでもないことがわかる。ちなみに、しっかりと胡座である。
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コメント
今年の大河ドラマ「麒麟がくる」で、戦国時代ですが登場する女性がほぼすべて「片立て膝」になっているのが印象的です。それが無礼な態度というわけでもなく、「家臣の妻がお殿様に謁見する」ようなシーンでもそうなのです。
最初は「えっ何この座り方!?」と感じたんですが、ちゃんと時代考証されてのことなんだろうなと思っていました。
最近の大河は考証がちゃんとされているからか、例えば斎藤道三1人に対して「道三・利政・お館様・山城守」などと時期・関係性によって呼び名を使い分けていますね。もちろん正確性は大事なのですが、母などは時おり混乱しているようで、わかりやすさとの兼ね合いも難しいようです。
投稿: らむね | 2020年7月 8日 19:35
らむね さん:
私はあまりテレビをみないので、大河ドラマで「片膝立て」になっているとは知りませんでした。こうしたことが一般的になれば、「何が何でも正座」という考え方も改められるかもしれませんね。
ただおっしゃるとおり、考証をきちんとやり過ぎると、違和感が増すこともあるのは事実で、そのあたりは難しいですね。
投稿: tak | 2020年7月 8日 19:44
ふむ、一見乱雑な漱石ちゃん(←お友達かよ!)の机周りですが、よく見ると参考文献(かな)が手を伸ばせば届くところに配置されていますね。これはこれで仕事しやすい環境設定なのかもしれませんね( ̄ー ̄)それと「胡坐」ですが参照サイト↓によると、(背中を伸ばせば)理にかなった座り方なようです。してみると、椅子の生活に慣れ親しんだ我々にはとっつきにくいかもしれませんが、「一見乱雑な机周り」と「胡坐」には、なにかクリエイティブに役立つアレがあるのかも?
今、物置部屋を作業部屋にリノベーションwしているところなので、ぼくも試してみっぺかな(←試してどうするw)。
https://yogajournal.jp/pose/4
投稿: くろうさ君 | 2020年7月 9日 13:36
くろうさ君 さん:
漱石の書物の積み重ね方は、今朝の地震(このあたりは震度 3)みたいなのがあったら、あっという間に崩れてしまいそうで、コワいです (^o^)
なるほど、「正しいあぐら」だと体にもいいみたいですね。座禅も「正しいあぐら」の変形でしょうし。
投稿: tak | 2020年7月 9日 14:13