「キムタク」に至る系譜
毎月、5 と 10 の付く日(いわゆる「ごとうび = 五十日)は銀行と道路が混み合うが、今日はその前日の 9日とはいえ、明日は土曜日で多くの企業がお休みとなるためか、道路がやたら混雑した。
というわけで、大型トラックのすぐ後ろで渋滞の中をノロノロ走ると、かなりストレスが溜まる。写真は赤信号のだいぶ手前で止まっている時にちゃちゃっと撮影したもの。この時は、信号 2回待ちだった。
トラックの荷台の文字を読むと、"Suzuyo Cargo Net" とある。ということは、「鈴与」のトラックなのだろう。私の若い頃は「鈴与」といったら倉庫会社のイメージが強かったが、今や物流を中心とする一大グループ企業として知られている。
30代の頃、繊維業界の在庫と物流を集中的に取材した際に、「鈴与」という社名が創業者の「初代鈴木與平」にちなんでいると知った。創業は 1801年(寛政 13年)。現在の代表取締役会長は 7代目鈴木與平、社長は 8代目鈴木與平だそうだ(参照)。すごいね。
歴史の古い企業には、このように創業者の名前を縮めて社名としているケースが結構ある。例えば大手商社の伊藤忠の社名の由来は、「1858年、初代伊藤忠兵衛が麻布(あさぬの)の『持下り』行商を開始したこと」(参照)とされている。(注:「持下り」については、最下段参照)
1858年といえば幕末の安政年間のことで、商売の始まりが麻布だけに、今でも大手商社の中では一番繊維関係に強みをもっている。
創業者の名前を縮めて企業名としているのは、この他にもイトマン(初代伊藤萬助)、イトーキ(伊藤喜十郎)、塩野義製薬(塩野義三郎)、ジュンク堂書店(創業者の父親、工藤淳の名字と名前をひっくり返している)などがある。
小規模なローカル企業に目を移すと、さすがに歴史の古い繊維関係の産地に、こうした社名が多い。私の故郷山形県の米沢産地には、安部吉、近賢織物、齋英織物、佐米染色など、いかにも名字と名前を縮めたものと思われる名前の企業が目白押しだ。
私が一時深く関連していた尾州の毛織物業界では、中伝毛織、中善毛織、鈴富毛織、鈴憲毛織、渡六毛織など、この類いの社名のオンパレードである。
そして時代が下っては、映画界で「エノケン(榎本健一)、「阪妻(坂東妻三郎)などが一世を風靡し、現代でもトヨエツ(豊川悦司)、キムタク(木村拓哉)に至るまでその系譜が続いている。この発想、なかなか根強いもののようなのだ。
【同日 追記】
そういえば、「モリリン」という会社もあった。江戸時代の創業時は「森林右衛門商店」だったという。これに関しては 3年前に自分で ”「モリリン株式会社」 という社名のアクセント“ という気味を書いていたんだった。
【「持下り」とは】
近江商人の原点とも言える商法。上方の品を地方に持ち下って販売し、得た利益で行った先の地域の産品を仕入れ、それを販売しながら上方に帰る。往復で商売するので「のこぎり商法」とも言われた。
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コメント
私はブリッジストーンを思い出しました。
石橋さんをひっくり返すなんて、誰が考えたんだろう?
投稿: Senna | 2020年10月10日 09:25
Senna さん:
ブリジストンは私の頭にも浮かびましたが、名字と名前を詰めたものじゃないので、泣く泣く省きました ^^;)
投稿: tak | 2020年10月10日 11:27
この前書いた小田原蒲鉾最大手の鈴廣、ソレでした。
6代目の鈴木廣吉のとき社名にしたようです。
でも、「それ苗字なのか!」ていう社名も面白いですよね。
ヤシの実洗剤のサラヤとか、また小田原ですが外郎とか。コレは外郎くんが入塾してきて初めて知りました(笑)。
投稿: らむね | 2020年10月10日 17:05
らむね さん:
「鈴廣」というのは、まさにこの類いの典型ですね。
「外郎」は、歌舞伎十八番『助六』の「外郎売り」の台詞が有名です。アナウンサーの滑舌練習用にされているぐらいです。
https://www.youtube.com/watch?v=zjrZMhRTg78&list=RDzjrZMhRTg78&start_radio=1&t=13
投稿: tak | 2020年10月10日 18:14