童謡『大きな栗の木の下で』の謎
このところ「米国大統領選挙」なんていう大ネタで何本か書いたので、今日は久しぶりのトリビア・ネタである。トリビアもトリビア、童謡『大きな栗の木の下で』に関してのお話だ。
高校の頃に、「うたごえ運動」なんてものに関わっていた先輩に「なんちゃら愛唱歌集」みたいなタイトルのハンドブックを押しつけられたことがある。声を揃えて楽しく歌えるような、いかにも健康的な歌が楽譜付きでどっさり収録されていたが、結局は捨ててしまって、今は手元にない。
その中の『大きな栗の木の下で』という曲には、英語の元歌と思われる原詩も収録されていて、それは "Under the Spreading Walnut Tree" ということになっていた。"Walnut" というのは「クルミ」で、「栗」の英語は "chestnut" である。
「へえ、元々は『栗の木』じゃなくて『クルミの木』だったのか!」と思ったのを、今でもよく覚えている。「大きなクルミの木の下で」では字余りになるので、訳詞者が勝手に『大きな栗の木の下で』に変えてしまったんだろうと納得していた。
ところがある日、ふとした気紛れで "Under the Spreading Walnut Tree" で動画検索してみたところ、どういうわけか上位に検索されるのはすべて "Under the Spreading Chestnut Tree" (大きな栗の木の下で)だった。日本人制作の「英語で歌おう」みたいなものばかりである(参照)。
ちなみに上の動画は、西洋人らしき男性が英語で歌ってはいるものの、全体的には思いっきりジャパニーズそのものの演出と雰囲気に溢れていて、気持ち悪くなるほどのギャップだ。
のみならず、それまで元歌とばかり思っていた "Under the Spreading Walnut Tree" に関しては、童画どころかそれらしいテキスト情報すら見つからない。これって一体どうしたことなのだ?
思いあまって Wikipedea にあたってみると、ざっくり言えば次のようなことだった(参照)。
- 『大きな栗の木の下で』という歌は、イギリス民謡をもとにしており、作詞者・作曲者ともに不詳。
- 日本語詞の 1番の訳詞者は不詳で、2番・3番の訳詞者は阪田寛夫とされるが、一部では訳詞者が寺島尚彦とされていることもある。
いずれにしても、明確な根拠は示されておらず、情報としてはかなり心許ない。アメリカのボーイスカウト・ソングとして広まったという説もあるが、これもしかとは確認できない。
そもそもの話として、原曲のタイトルが "Under the Spreading Chestnut Tree" (大きな栗の木の下で)だなんて、私は信じていない。「クリ」という植物は東アジア固有のもの(参照)だから、ヨーロッパやアメリカで童謡になるほど親しまれているとは、まったく考えられないのだ。
【追記】この点に関しては、下の【追記 その 2】を参照のこと。個人的には不明を恥じるばかり。
原曲が英国発祥だとしたら、やはり "walnaut tree" (クルミの木)なのだろうと思うほかないではないか。あるいはもしかしたら本当は日本語が先で、英語は後からこじつけられたんじゃないかという気さえするほどだ。
この歌に関する目の覚めるような情報をお持ちの方がいらしたら、どうかご教示いただきたい。
【追記】
ことのついでにさらなるトリビアだが、この英語の歌を紹介する動画では、栗の実がまるで柿の実のように、そのまま木の枝になっているのが 2本もあるのに(参照 1、参照 2)、イガに包まれているのは、上で紹介した動画以外にはほとんど見つからない。
今どきの動画スタッフは、自然の状態の栗の実の姿を知らないようなのだ。児童教育用童画なんだろうに、逆に教育に悪いよね。
【追記 その 2】
ありがたいことに automo さんという方が、さっそく「目の覚めるような情報」をコメントしてくださった。
なんと「クリ」は確かに東アジア固有のものだが、欧米にはよく似た種類で「ヨーロッパグリ」というのがあるというのである (参照 1。参照 2)
なるほど、そういうことなら原曲の詩が "Under the Spreading Chestnut Tree" でも不思議はない。
とはいえ、この歌の Children song に関する記述が、日本以外のインターネットの世界に見当たらないということに関する疑問は、まだ晴れない。
【追記 その 3】
新しい情報が次々に入って、翌日、翌々日に関連記事を載せているので、下記をクリックしてリンク先をご覧戴きたい。
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コメント
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ご参考までに
投稿: automo | 2020年11月13日 10:24
automo さん:
さっそくの「目の覚めるような情報」、ありがとうございます。
欧米にもあるのだということを、初めて知りました。不明を恥じるところであります。
投稿: tak | 2020年11月13日 10:56