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2021年2月26日

「数学嫌いの若者」に関する考察

東洋経済 ONLINE に "「数学嫌いの若者」が生みだされ続ける根本原因 小学校時代の算数の教え方がその後を左右する" という記事を見つけて、「我が意を得たり」とばかりに読んでしまった。ちなみに私は「極端な文系」ということになっていて、数学は苦手である。

210226

この記事を書かれた 芳沢光雄 先生は、数学嫌いになる問題の一端に小学校時代の「かけ算九九」の授業があるとして、次のように指摘されている。

3×4=12の「サンシジュウニ」ならば、3+3+3+3=12 を示した後に暗記させるものである。ところが、困った指導が一部で行われて、3×4=12 のような意味を示す前に九九を全部暗唱させていたのである。

私の小学校 2年生の頃の指導は、まさにそれだったように思う。授業では「九九の意味と必要性」なんて一度もまともに説明されず、ふと気付くと、ただひたすら「九九を早く暗唱できるようになった子がエラい」みたいな雰囲気になっていた。

そんなわけで学校の休み時間でも登下校の途中でも、みんな異様に大きな声で競争のように「九九」を唱えて(というか、叫んで)いるのだった。申し訳ないけど、私は気恥ずかしくてその環の中には到底加われなかった。

「かけ算九九」って要するに「単純記憶」の勝負で「考える必要」がまったくないというより、下手に考えるとそれが邪魔になってしまうぐらいのものだから、誰でも抵抗なく入れたのだろう。しかし、ただ単に憶えるなら「寿限無」の方がずっと楽しいけどね。

私としては「九九」の喧噪の中でひたすらポカンとしながら、「『9×9=81』なんて、9を 9回足せばわかるじゃん」と思っていた。実際に九九のペーパーテストでも、九九を完全に暗唱できないくせに このやり方であっさり満点だった。(さすがに、その後しばらくして自然に覚えられたが)

で、芳沢先生の指摘によれば、これこそ正しいアプローチだったわけだ。そのお墨付きをもらっただけでも、この記事を読んだ甲斐があるというものである。「九九」って数学に必要な論理思考とは別の筋肉しか使わないみたいなのだね。

というわけで、私は「理数が苦手」とはいいながら「論理思考が苦手」というわけでは決してなく、むしろ得意と言っていいほどだ。このことは 2011年 7月の "「数字数式認識障害」とでも言いたくなるほど、数字に弱いのだよ" という記事に書いている)

定理や公式の意味はことごとくきちんと理解できるし、相対性理論とか素粒子論などの文献を読むのもほとんど苦にならない。

これらの分野に関しては、その辺の「数学や科学は、誰が考えても答えが一つだからいいんだ」なんてノー天気なことを言っているフツーの理数系よりは、きちんと理解しているという自信がある。

ただ、この記事に書いているように、私の場合は「数字数式認識障害」とでも言いたくなるような欠陥があるみたいなのだ(「識字障害(Dyslexia)」に類したものだろうか)。それで、同じ生きていくなら数字の世界ではなく文系の世界で論理を貫いて行こうという気になって、今日に至っている。

というわけで、私は決して「数学嫌い」じゃないのに「数字に弱い」だけで、世間から「極端な文系」扱いされ続けているわけなのだよね。まあ、ここまできたら別にそれでもいいけど。

【2月 27日 追記】

本文で触れた「九九のペーパーテスト」では、完全に暗唱できない私が満点なのに、しっかり暗唱できている子が「70点」とか「80点」とかしか取れていないのが、不思議でしょうがなかった。

あれって多分、「さんしちにじゅういち」と「3×7=21」が、頭の中でリンクしていなかったんだろうね。何しろ「使う筋肉が違う」ので。

 

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日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

東洋経済の記事中のこの部分、

「2012年度の全国学力テストから加わった理科の中学分野(中学3年対象)で、10%の食塩水を1000グラムつくるのに必要な食塩と水の質量をそれぞれ求めさせる問題が出題された。」

筆者が書いたのでしょうか。
私には解答不可です。

濃度10%の食塩水と書いてくれないと何が10%なのか分からない。私、アスペなもんですから問題を読んでて、こういうところで考え込んでしまいます。

回答できなかった生徒はここで考え込んでしまったのかも知れません。

投稿: ハマッコー | 2021年2月26日 20:28

ハマッコー さん:

>濃度10%の食塩水と書いてくれないと何が10%なのか分からない。

確かに、芳沢先生、文章端折っちゃってますね ^^;)

これ、食塩水 1000グラムというところで、1ℓ と短絡的に思い違いするケースが多かったのかと思ってましたが、学力テストの問題文が実際にこのままだったとしたら、まさに「問題」ですよね。

投稿: tak | 2021年2月26日 22:13

私は「教育の専門家たちはどのように指導を考えているのか」を知りたいとき、教科書会社のHPをよく見ます。「教科書的」というネガティブな表現に使われがちですが、教科書というのはよくできています。その分野の専門家が数十年かけてのべ数百人が議論と推敲を重ねた本です。「人気予備校講師の書いた『これでバッチリ!』的なもの」よりはるかに信頼がおけます。
閑話休題。算数教科書最大手の東京書籍のHPによると、2年生の掛け算の単元では、一番最初に出てくる「5の段の暗唱」までに実に8時間の指導が想定されていて、「同じ数をくり返し足す」ことから始まり時間をかけて「掛け算」という新しい計算の概念を学習していくのです。掛け算の単元は教科書にして50ページ、39時間(8週分)あります。「意味も解らず暗唱させるだけ」ならばそんなコストの投入は不要なのです。
ただそ私はれほど低学年児を教えることは少ないので、芳沢先生が書かれているように一部に「九九さえ言えればいいのだ」という教え方をする教員もいるのかもしれません。あとは、しょせん8歳の時の記憶ですから、何度も暗唱した記憶の方が強く残っている人も多いでしょうね。
要は先生個人の力量なのですが、この年齢の子供に教科別教員も難しいでしょうし、長時間労働が当たり前の教員に全教科の膨大な講習を受けさせることも現実的ではなく、解決策・・・・
あら、文が締められません(笑)。まあこんなふうに思うわけです。

ちなみに濃度の問題、原文はこうですね。
「(1)望さんは,食塩水の濃度を調べ,10% にすることにしました。その食塩水1000gをつくるために,必要な食塩と水の質量は,それぞれ何gですか。」
これの正解率が下がったとありますが、100g10%から10gを得るのと、1000g10%から100gを得るのとでは難易度がだいぶ違います。これをもって「最近の子は割合ができない」と言うことはできません。また2012年の全国学力テストは4月17日実施、つまり中3とはいえほとんど「中2終了時の学力」です。1983年のテストの詳細はわかりませんがその影響もあるかもしれません。

投稿: らむね | 2021年2月27日 10:38

らむね さん:

なるほど、教科書会社の想定としてはそういうことになっているのですね。

ただ、私の場合は(なにしろ 60年前の話ですが)、授業で「2の段」と「5の段」をちょこちょこっとやって、「こりゃ、チョロいわ」と思っていると、ある日気付いた時には、周り中で「九九暗唱のマスヒステリー」が始まっていて、「こりゃ、何じゃ?」という状況になっていました。

で、授業中にも何の説明もなく「九九暗唱」をみんなで大声でやらされて、私は「????」になっていました。

教師としては、「九九の暗唱ぐらいは、説明するまでもなく日本人の常識」と思っていたのかもしれませんが、私はなにしろ「非常識な子」でしたので、今でも声に出して九九を唱えるのは嫌いです ^^;)

食塩水の問題に関しては、私としては一瞬ですが 1000㎖ (食塩水の体積)と 1000g (水 + 食塩の重量)を混同しそうになりました。間違えた生徒のかなりの部分は同じ勘違いをしたんじゃないかと思ってしまいます。

投稿: tak | 2021年2月27日 11:26

>1000㎖ (食塩水の体積)と 1000g (水 + 食塩の重量)を混同しそうになりました。間違えた生徒のかなりの部分は同じ勘違いをしたんじゃないかと思ってしまいます。

これは「いない」と断言できます。
食塩水1000mlは1000gではない、これはおっしゃる通りですが、これは密度の計算が絡んできます。例えば10%の食塩水1000mlの質量は1069gになり、ここから導かれる答えは「食塩106.9g、水962.1g」ですが、こんな誤答をした中学生は一人もいないでしょう。そもそも、濃度ごとの密度の値が与えられないと(こういうのですhttp://www.edu.utsunomiya-u.ac.jp/chem/v7n1/ashida2/TabC02.htm)誰も解けません。これを求める単元は高校化学で、中学生では「その概念すら」知らないことがほとんどです。一部に「食塩水は海水のように重くなるんだから100mlの食塩水は100gじゃないなー」というところまで思考できる子がいますが、それはトップ層です。そしてそのトップ層の子たちが、1000gを1000mlと混同したために答えを出せないということは絶無と言えます。

投稿: らむね | 2021年2月27日 17:30

らむね さん:

>>1000㎖ (食塩水の体積)と 1000g (水 + 食塩の重量)を混同しそうになりました。間違えた生徒のかなりの部分は同じ勘違いをしたんじゃないかと思ってしまいます。

>これは「いない」と断言できます。

私が指摘したのは、

「この勘違いのために間違った方向に計算を突き詰めてしまった生徒がいたはずだ」

というのではなく、

「この勘違いのために、わけわからなくなっちゃった生徒がいたかも」

というレベルのお話ですので、よろしく ^^;)

投稿: tak | 2021年2月27日 17:44

「食塩水1000gじゃなく、食塩水1000mlってどうやってつくるんだろう?」ということですか。それの勘違いで答えが出せなくなる中学生、私の経験上はいませんが、もしいるなら、1983年にも同程度の割合でいたはずで、やはり「30年後に割合ができなくなった」という説の補強にはなりません。

投稿: らむね | 2021年2月27日 18:40

らむね さん:

>それの勘違いで答えが出せなくなる中学生、私の経験上はいませんが、

まあ、私は一瞬の勘違いで済んで、「重量の問題だよな」と気付いたので、フツーに解けましたが、もし一瞬で済まなかったら、「わけわからん!」と諦めて、次の問題に行ってたと思います (^o^)

あるいは、「こういうの苦手、わけわからん!」で初めから投げてしまう子もいるでしょう。

1983年と 2012年のデータが紹介されたのは、たまたまの「行きがかり上」という印象で、それをもって「30年後に割合ができなくなった」と、明確に書かれているわけではありません。

つまり、1983年頃までの算数教育はまともだったが、それ以後に急速に歪んできたのだと、あえてことさらに主張するために書かれた文章とは思われないということです。

もっとずっと長いスパンで語られるべきでしょう。私が算数教育を受けた半世紀以上も前に、既にずいぶん歪んでいたわけですし。

投稿: tak | 2021年2月27日 21:47

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