「三重県議会の汚点」報道を巡る冒険
朝日新聞が昨日付で "性的少数者の招致は「議会の汚点」 県議の投稿巡り提訴" と伝えている。三重の稲森稔尚という県議が、県議会の差別解消を目指す特別委員会で、性的少数者を代表する参考人として意見を述べた男性に関して「三重県議会の汚点となる参考人招致」と tweet したという。
よくわからない話なので、どんな tweet なのか検索してみると、こんなもんだった。朝日新聞の記事では「県議会の特別委員会に参考人として出席した男性」の名前までは触れられていないが、元ツイに実名が出ている。
それは「芙桜会」という性的少数者団体の代表理事、近藤聡さんという方である(参照)。
で、今回の問題となっているのは、昨年 10月 14日に三重県議会で開催された「差別解消を目指す条例検討調査特別委員会」という会議だ。この委員会の模様は YouTube にも上げられているので、つぶさに(というか、下記の如く "つぶさすぎるほど")見ることができる(参照)。
このビデオはトータル 4時間 8分 5秒と表示されていて、一瞬「げっ、長え!」とたじろいでしまうが、3回にわたる「休憩」のブルー画面が無駄に延々と続く時間が長く、実質は半分以下の 2時間足らずである。どうして休憩時間の部分をカットしなかったのか、はっきり言って気が知れない。
上の稲森議員の tweet の元ツイに登場する場面は、この元のビデオの最初から 1時間 20分経ったあたりからの 2分 20秒間なのだが、伊賀市がいわゆる「パートナーシップ制度」を導入していることをよほど誇りたいらしく、かなり恣意的に切り取られているのが見え見えだ。
この委員会での近藤さんの発言をビデオの通しで聞けば、当然にも賛否はいろいろあるだろうが、なかなか筋の通ったものである。プレゼン資料はネット上に公開されているので(参照)、これを見ながらビデオ音声を聞くと勉強にもなる。「汚点」という言葉がどこから出てきたのか、さっぱりわからない。
上で触れた「パートナーシップ制度」というものも、冷静にみれば問題の根本的解決に決定的な貢献をしているわけではないことが、客観的によく説明されている。
ざっくりと言えば、近藤さんの発言は「政治的視点」を超えた当事者としての実感から発するものであり、それと比較するとビデオ中の稲森議員の発言には自身の政治的立場への固執が感じられる。この問題に関する彼の釈明 tweet には、その固執ゆえの誤解、曲解、言いがかりが目立つし(参照)。
近藤さんはプレゼンの後半で、「LGBT 運動家やその支持・協力者からの当事者への攻撃」がみられることを大きな問題と指摘している。そして今回のケースで、図らずもそれが浮き彫りにされた。稲森議員の「汚点」tweet は、まさにその典型例である。
「なるほど、真摯なプレゼンをした結果、こんな風に『汚点』と罵られたりすることまであるのね」というのが、よくわかった。世の中には「多様性の肯定」のできない人がいるのである。
念のために触れておくが、単純図式的に言えば近藤さんは LGBT 運動の中でも政治的にはちょっと右派で、稲森議員は左派の立場なのかもしれないなというのはうかがえる。それで稲森議員が過剰反応したという可能性も考えられるが、この問題で右派だの左派だのいうのは不毛だと思ってしまうのだよ。
【最後に狂歌を一首】
見解を異とする者をことさらに汚点と云ひて責むる議員よ
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コメント
動画や資料見ました。
認識レベルの違いですねえ。「東京など一部でしかできていない同姓パートナー制度をわが三重はやったんですよ、すごいでしょう?当事者のかた、どうぞ褒めてください!」というスタンスで呼んだ県議と、いっぽうで「そんな書類上・制度上のことで差別されないなんてのは当たり前のことで、そのうえでマイノリティの生きづらさや向けられる目を変えていく」という活動家。ズレてますねえ。
投稿: らむね | 2021年2月 5日 11:15
らむね さん:
まさに「言い得たコメント」、ありがとうございます。
それにしても「汚点」とは、ひどい言い草ですよねぇ。
この議員、反原発活動なんかを地道に続けてる人みたいですが、案外、エコ視点というより政治視点の話なのかも。
投稿: tak | 2021年2月 5日 14:09