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2021年5月 2日

「シミュレーション/シュミレーション」の「音位転換」

「ことばの疑問」というサイトに "「シミュレーション」が「シュミレーション」と発音されるのはなぜでしょうか" という質問が寄せられており、それに対する回答がとてもおもしろい。

210502

そこでは「言葉のゆれ」について、次のように紹介されている。

  1. 撥音(「ン」)が長音(「ー」)になる場合。
    類例 : 「店員」→「テーイン」,「原因」→「ゲーイン」など。

  2. 拗音(特に「ュ」)が脱落する場合。
    類例 : 「出張」→「シッチョー」,「手術」→「シジツ」など。

  3. 連続する同じ母音が単音化する場合。
    類例 : 「体育」→「タイク」,「第一」→「ダイチ」

  4. k や s などの子音(無声子音)に挟まれた母音が脱落する場合。
    類例 : 「満足感」→「マンゾッカン」,「大仏さん」→「ダイブッサン」

  5. 前後の音が入れ替わる場合。
    類例 : 「雰囲気」→「フインキ」,「フェミニズム」→「フェニミズム」

「シミュレーション/シュミレーション」は上記の 5番「前後の音が入れ替わる場合」に該当し、「音位転換(metathesis)」と呼ばれるという。また別に存在する「趣味」という言葉に引きずられたということも考えられ、これは「類音牽引」と言われるらしい。つまり「合わせ技」だ。

"Metathesis" の "thesis" というのは学位論文とか、弁証法の 「テーゼ」のことだとばかり思っていたが、この場合は、詩や音楽の「強弱」ということらしい。そしてこのページ冒頭のイラストの、VR グラスをかけた 2人の「君の趣味は何?」「シュミレーションゲームだよ」という会話はイケてるよね。

「シミュレーション/シュミレーション」に関しては前にも書いた覚えがあるので検索してみたところ、「我々の現実は実は全て仮想現実?」という 13年も前の記事が見つかった。

私はそのエントリーで Technobahn というサイトの「我々の現実は実は全て仮想現実、研究者が奇抜な論文発表」という興味深い記事を紹介しているのだが、この中で、「宇宙は多次元の宇宙的時間軸で動いているシュミレーションの産物であると推論」と書かれているので、ちょっとがっかりしたのだった。

科学の世界を紹介しているのだから、ここはちゃんと「シミュレーション」と表記してもらいたかったところである。コメントのやりとりのうちに、元記事はそれほど深い内容じゃないとわかってさらにがっかりしたのだが、このアイデアそのものは、勝手に発展させたらかなりファンタスティックになる。

話が横道にそれかかったが、言葉というのは思わぬ方向に揺れたり変化したりするというのがよくわかる。

ちなみに私自身について言えば、「店員/手術/第一」などは決して「テーイン/シジツ/ダイチ」とはならない。これはきっと、ネイティブな「庄内弁」と物心ついてから修得した共通語の、いわば「バイリンガル」だからと思う。共通語はフォーマルな気がしていて、ことさらしっかり発音してしまうのだ。

ただ、「満足感/大仏さん」などは「マンゾッカン/ダイブッサン」となる。これをしっかり発音しすぎるると、クドい印象になってしまうからね。

ところで「音転現象/音位転換」について私は、2017/12/24 の "「雰囲気 — ふいんき」問題を巡る冒険" という記事でも触れていて、さらに翌年のエイプリルフール・ネタにまでしている(参照)。もっと遡れば、"「なおざり」 と 「おざなり」 言葉は生き物" という 18年も前のページにも出てくるし。

私ってば、「言葉」の問題に関してはずいぶん昔からいろいろこだわってきたものである。

 

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