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2021年7月30日

「謝らない謝罪」それは「遠回りな開き直り」

Newsweek 日本版の ”「謝らない謝罪」が日本で蔓延している” という記事に共感した。「その言葉への違和感」として望月優大氏の書いたものである。

210730

多くの読者は、見出しを見ただけで何のことだかすぐにわかるだろう。そう、例の「誤解を生じさせてしまったことについてはお詫びする」とか、「誤解を与えたのであれば申し訳ない」とかいう(かなり都合良すぎる)決まり文句のお話だ。

世間はとくに最近、この類いの妙なアポロジーに溢れていて、私もかなり気になっていたところである。記事によれば、英語には "non-apology" ("non-apology apology" とも)という言葉があり、オックスフォード大学が運営する辞書サイト "LEXICO" では、次のように説明されている(参照)。

謝罪の形式を取りながら、問題行為や混乱発生に関する責任を認めることや悔悟の念の表明にはなっていない声明(tak-shonai 訳)

つまり、形だけは謝罪のように見えても、言外に「俺、別に悪くないもんね」と語っている詭弁的なコメントを指す。

そのココロは、「そんなつもりはなかったのに、お前らが面倒なことをゴチャゴチャ言いやがるんで、鬱陶しいから一応形だけは謝っといたるわ」ということだ。これ、要するに「遠回りな開き直り」である。

森喜朗が 2月に東京五輪・パラリンピック大会会長を辞任した際の以下のような「〜けれども」「〜だが」の連続する戯言(参照)は、ただでさえみっともない non-apoiogy の中でも最低の部類と言っておく。

まあこれは解釈の仕方だと思うんですけれども、そういうとまた悪口を書かれますけれども、私は当時そういうものを言ったわけじゃないんだが、多少意図的な報道があったんだろうと思いますけれども。まあ女性蔑視だと、そう言われまして。

菅首相も昨年末の多人数での会食についてツッコまれ「国民の誤解を招くという意味では、真摯に反省している」なんて言っている(参照)。しかしコトは「誤解」の余地なんてない「単純事実」なのだから「詭弁」というにもお粗末すぎで、実際はちっとも反省にも謝罪にもなっていない。

この他にも「そういう意味で言ったわけじゃないんですが・・・」とか「差別的意図はなかったんですが・・・」とか言うのは、こうしたコメントの枕詞のようなものだが、ちょっと心理学を囓った者なら、「そういう意味だったんだよ!」「本音がポロリと出たんだよ!」とツッコミたくなるに違いない。

フロイト心理学が広く認知されている米国では、ちょっとした言い間違いやトチりに深層心理内の本音がひょっこり顔を出すということは、知識層の常識みたいになっている。だから「そんなつもりじゃなかった」という言い訳で切り抜けるのは、米国ではもはや困難だ。

つまり彼らの問題発言は、「誤解を生じた」なんてことではなく「本音が図星でバレた」ということに他ならない。形だけの謝罪で済まされることではなく、本気で詫びて反省しなければならないところなのだ。

それができずに「些細な問題」で済ませている限り、彼らの本音はいつまでも醜悪なまま残るし、以後は巧妙にとぼけようとするだけに、ますます始末に負えない。

 

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コメント

Newsweek、良い記事でした。前々から私も思ってましたが、やはり文才のある方が書くときっちりまとまりますねえ。
>誤解は理解の失敗(mis-understanding)であるわけだから、傷つけられた側、差別をされた側へと問題を転嫁し
腑に落ちる表現です。

ちなみに、森さんが会長を辞任するヤフーニュースの記事に私が書いたコメントがこれです。
・・・
>問題をこれ以上長引かせる訳にはいかない
>娘や孫、家族にまで迷惑をかけられない

そうじゃないんだよ、森さん。
あなたは「辞任が避けられないほど、言ってはいけないことを言った」のですよ。まだそれがわかりませんか?
これでは辞意会見で頭のいい部下が書いたのを読んでうまいこといっても、質疑応答ですぐ襤褸が出ますよ。
・・・

投稿: らむね | 2021年7月30日 12:12

らむね さん:

>そうじゃないんだよ、森さん。
>あなたは「辞任が避けられないほど、言ってはいけないことを言った」のですよ。まだそれがわかりませんか?

まさにそういうことですね。

それがわからないというのは、頭の中身が昭和 30年代ぐらいまでのままバージョンアップされないまま、半世紀以上生きてきたってことです。

森さん、菅総理なんかと比べると下手に(中途半端な)言語能力があるものだから、いつも余計なことを言ってしまいます。

投稿: tak | 2021年7月30日 12:18

ちょっと前の某国の首相って方は、
「〇〇は誠に遺憾である、と、思っております。」
「〇〇に於いては、ですね、これはまさに、政府としてですね、早急に状況を把握して、判断して行く、ことが最重要、と、思っております。」

って、「思っただけで、実行するとは一言も言ってない。」ことを体現されてましたねぇ。

スガさんのは、及第点は差し上げられませんねぇ。(及第点って)

投稿: 乙痴庵 | 2021年7月30日 12:32

乙痴庵 さん:

「ちょっと前の某国の首相」って、「云々」を「でんでん」なんて読んじゃった人ですかね ? ^^;)

投稿: tak | 2021年7月30日 19:55

 野暮かと思いますが、
>「誤らない謝罪」←誤字かと.....

takさんが仰るように、まさに、「遠回りな開き直り」なんですよね。だから、当事者はいつまでも学ばないし、見せつけられるこちらは不愉快な思いをする。

投稿: 山姥 | 2021年7月31日 07:16

山姥 さん:

ありゃ、本当だ ^^;)

ご指摘、まことにありがとうございます。修正しときます。

>当事者はいつまでも学ばないし、見せつけられるこちらは不愉快な思いをする。

本当に不愉快ですよね。この類いの言い訳、ますます増えて行きそうです。

投稿: tak | 2021年7月31日 08:01

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