土石流と「避難指示」の問題
一昨日は仕事に追われていたので、ニュースはラジオで聞き流していただけで、例の熱海の土石流のニュースもほとんどピンときていなかった。昨日になってテレビで初めて動画を見て、「これはヒドいことだ!」と驚いてしまったわけだ。
巻き込まれて亡くなった人も少なくないというので、当初は「どうして避難しなかったんだろう?」と思っていた。私の住んでいる区域は今は改善されたが、以前は洪水危険区域だったので、昭和 62年(1986年)の小貝川洪水の時は、一家で高台の避難所に移って無事だったということがある(参照)。
その時は発令された「避難勧告」に従ったのだが、実際に避難したのは地域住民の 3割にも達しなかったと思う。ほとんどは家に残ったままで床下/床上浸水に遭い、翌朝はどこにも出られなくなって、ボートで救助されていた。
そんなわけで、強制力のない「避難勧告」ではあまり意味をなさないということを行政も理解したようで、現在はこの項目はなくなって、「避難指示」に統一されている。それで私は今回、「避難指示」にも従わず、土石流に巻き込まれた人がいたのだと思っていたのである。
ところが昨日、ネット上のニュースで確認すると、被害区域では「避難指示」は出されていなかったというではないか(参照)。そんなことだと、熱海市の責任問題に発展する可能性もあるだろう。
あるいは「避難指示」というのは大きな強制力があるので、出す方は必要以上に慎重になってしまうのかもしれない。避難を強制しながら、結果的にはそれほどの被害がなかったとなると、「過剰反応」とのそしりが出かねないと懼れるのだろう。
もし「避難勧告」というのが残っていたとしたら、今回のような場合でも早い段階で出されていた可能性がある。その方がよかったかもしれないが、ただ、それでは強制力がなくて従う人が少ないということで、議論は振り出しに戻ってしまう。
こんな話でゴタゴタしてしまうのは、人間は「避難勧告」程度ではなかなか実際の避難行動に移りにくいもののようだからである。地域の世話役をしたような人の体験を聞いても、「避難勧告が出たので、避難してください」と言っても、素直に従う人はごく少なかったという。
「わしゃ、この土地に 70年住んでいるけど、そんなに危険なまでの洪水なんかになったことがない!」なんて言って、なかなか腰を上げてくれないのだそうだ。日本人の多くは、ほんの数滴の雨が降っただけで傘をさすくせに(参照)、洪水の危険が迫っても逃げたがらないという不思議な人たちである。
日本の気象は変わってしまったと言わざるを得ない。過去 70年間にわたって洪水なんかにならなかったとしても、今では土石流にまでなってしまうことがあるのだ。
行政には、迷わず早めの段階で「避難指示」を発令してくれることを望むばかりである。それには避難場所の確保などの問題も生じるらしいが、普段からそうした対応の準備をしておいてもらいたいものだ。
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コメント
takさんのご指摘にも一理ありますが、私はそれ以上にハザードマップの軽視に問題があると思っています。
消防団員となったこともあり、各地で災害のニュースを聞くとその地域のハザードマップを確認するのが習慣になっています(同じことをする人は多いようで、サイトがアクセス多数により不通になっていることも多いです)。その結果感じることは、災害に遭った場所はほぼ100%ハザードマップの危険区域になっているということです。そういった場所に住んでいる人は避難指示ガーなどと言わず特に自己で注意すべきです。
ハザードマップは時間をかけて専門家の知見も交えて作成され、実際の被害地域が当たっていることから極めて信頼性の高いものだと思います(例えば私自身のごく近所を見ても、住民すら気づかないような小さな崖まで網羅してあり、足を使ってこれを作成している役所担当者の苦労には頭が下がるばかりです)。現在では紙のマップが全戸配布されているはずで、スマホが使えないからどうこうなどの批判も当たりません。にも関わらず、避難指示の有無をことさらに問題視する風潮には大いに疑問を感じます。
投稿: らむね | 2021年7月 5日 20:59
らむね さん:
ハザードマップ、紙で全戸配布されているとのことで、我が家にもあると思うのですが、どこにしまったか、見つかりません。お恥ずかしい。
そんなような家庭は多いと思います。
ただ、我が家は以前は洪水危険区域であることがわかっていましたので、それなりに自己責任で行動していました。(最近は治水が進んでかなり楽になりましたが)
>そういった場所に住んでいる人は避難指示ガーなどと言わず特に自己で注意すべきです。
まさにその通りですが、そうした区域に住んでいるくせに呑気な人って、案外多いです。
自分で選んで住んでるんですから、自己責任を自覚すべきですね。ただ、その自覚のない人が多いので、行政の指示も重要だと考えています。
本文でも触れたように、「わしゃ、この土地に 70年住んでいるけど・・・」なんて言ってる人も多いですから。
投稿: tak | 2021年7月 5日 22:04