原稿をちゃんと読めただけで、ニュースになっちゃう人
「犬が人を噛んでもニュースにならないが、人が犬を噛んだらニュースになる」(When a dog bites a man, that is not news. But if a man bites a dog, that is news.)という格言がある。
英国の新聞王、アルフレッド・ハームズワース(Alfred Harmsworth)の言葉とされるが、実はその説はかなりアヤシいらしく、Wikipedia の彼の項目には、日本語版でも英語版でも、それに関する記述がない。
ただいずれにしてもこの言葉は、「ありきたりのことはニュースにならないが、滅多にないことはニュースになる」ということを言っている。
話は変わって、昨日付の時事ドットコムニュースに、「長崎原爆忌、1分遅刻 あいさつ読み飛ばさず ー 菅首相」という見出しの記事がある。菅首相のトンチンカン発言や言い間違いは、これまでさんざん報道されてきたし、原稿の「読み飛ばし」が顰蹙を買ったのは、つい 4日前の広島原爆忌でのことである。
しかしここに来て、局面は確実に変わりつつあるようだ。
つまり、管首相が原稿をまともに読めなかったぐらいでは、あまりにもフツーのことすぎて、もはやニュース・バリューが低下してしまい、逆に「ちゃんと読めた」ことの方にニュース・バリューが見出されてしまうという段階にまで到達してしまったのである。
我々って、スゴい国のスゴい時代に生きているのだね。「一国の首相が原稿を読み飛ばさずにちゃんと最後まで読めただけで、時事通信の記事の見出しになった」という事実は、後世に語り継ぐ価値があるかもしれない。もっとも、悲しいまでの「負の価値」ではあるが。
【2021年 10月 1日 追記】
ここで触れた広島原爆忌での「あいさつ読み飛ばし」に関して菅首相周辺は、「(蛇腹式に繋がれた)原稿を貼り合わせる際に使ったのりが予定外の場所に付着し、めくれない状態になっていた」ためだとし、「完全に事務方のミスだ」と釈明した(参照)が、それはデタラメな言い訳にすぎないと判明した。
In Fact に掲載された宮崎園子さんの「【総理の挨拶文】のり付着の痕跡は無かった」というレポートでは、公文書開示請求によって開示された広島市公文書館に保存された挨拶文原稿には、糊がはみ出した形跡はまったくなかったとしている。こんな具合だ。
紙と紙の間を接続する細い紙は、表面ではなくて裏面に貼り付けてある。万が一のりがはみ出したとしても、裏面同士がくっついてしまう構造であるため、蛇腹をめくれない状態になどならない。接続部分をよく見てみると、たるみやシワ、うねり、ズレが何一つなく、ピシッとのり付けがされている。貼り付け部分からのりがはみ出した形跡もまったくない。ましてや、くっついてしまった部分を無理にはがした跡もなかった。
いやはや、まったくヒドいもので、人格を疑っちゃうよね。完全に自分の不注意なのに、言うに事欠いて他人のせいにしてるんだから。
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コメント
渡米直後の全盛期のイチローは「ヒットを打たなかったことがニュースになる」ほどでしたが似てますかね。イチローに失礼でしょうか(笑)
年よりの政治家ほど、「スピーチ」を軽視しているような気がします。あの人たちにとってスピーチは「誰も聞いていない校長先生のお話」みたいなもんじゃないのかと。
最近この記事が気になりました。よろしければ。
https://dot.asahi.com/dot/2021080600079.html
投稿: らむね | 2021年8月10日 08:00
らむね さん:
イチローの場合は、彼の偉大さを表すエピソードですから、大したものですね。
>年よりの政治家ほど、「スピーチ」を軽視しているような気がします。あの人たちにとってスピーチは「誰も聞いていない校長先生のお話」みたいなもんじゃないのかと。
同感です。
原稿を読み上げるにも、フツーに意味を確認しながらであれば、途中で読み飛ばしたら文脈がおかしくなっているのに気付いて、気持ち悪くなるはずですけどね。
シンパシーなんてまったくなく、ただ口先だけで読み上げるだけなので、何の違和感も生じないままで、平然と読み終えてしまえるのでしょう。
ご紹介の記事、いい記事ですね。感動ものです。
投稿: tak | 2021年8月10日 09:36
一国のリーダーがうつむき加減で弱々しく原稿を間違いなく読みきったらニュースなるなんて、この国に住んでるのが不安になりそうです。
アメリカの大統領が同じ事をやったら健康不安説が流れて世界が揺れるかも知れませんね。
菅さんは精神的に追い詰められているのは想像に難くない。でもあとがいない。また、でんでん氏が総理になったりして。
投稿: ハマッコー | 2021年8月10日 13:45
ハマッコー さん:
そもそも、アメリカではスピーチのできない人がリーダーになるなんてあり得ませんからね。
彼の国で菅首相みたいなことになったら、「健康不安説」よりも、「頭の中身の方の不安説」が噴出するでしょう。
>でもあとがいない。
やっぱり、自民党にはもう人がいないみたいですね。
投稿: tak | 2021年8月10日 19:48
街中のポスターなんかには、「弁士 〇山〇男」って書いてあるのになぁ。
弁士とあれど弁立たず
三味線が聞こえてきそうだ。
ベンベンベンベンベンベン〜ベンベン!
今の政治家は三味線すら吹けない。
投稿: 乙痴庵 | 2021年8月13日 13:56
乙痴庵 さん:
「弁士」とありますね。確かに。
まさに、弁が立たなくても「弁士」で行けちゃうんですね。いやはや。
投稿: tak | 2021年8月13日 20:42
スピーチ原稿がマスコミに事前に配布されていて
マスコミが読み飛ばしやアドリブに気が付くようになり、
それをさも問題であるかのように誘導していることが異常ではないでしょうか。
当日の天候や聴衆の反応などに応じて変化を付け、
準備した原稿通りに読まないなんて当たり前なのですから。
投稿: 通りすがり | 2021年8月16日 18:06
通りすがり さん:
>スピーチ原稿がマスコミに事前に配布されていて
>マスコミが読み飛ばしやアドリブに気が付くようになり、
>それをさも問題であるかのように誘導していることが異常ではないでしょうか。
気の利いたアドリブなら、マスコミも問題にしないどころか、賞賛すると思いますよ。
菅首相の場合は、まともなアドリブなんて聞いたことがないし、意味が通じなくなるほどお粗末な読み間違いや読み飛ばしばかりが目に付くので、問題にされたのでしょう。
そして、それがさらに進んで、たまにちゃんと読めただけでニュースになるというわけです。
投稿: tak | 2021年8月16日 18:49