日本という国の「西高東低」的構造
東洋経済 ONLINE のサイトに ”「関東/関西」大抵の人が知らない地理感覚の起源 フロンティアは東にあり!「西高東低」の歴史” という記事がある。筆者の本郷和人さんという方は東京大学史料編纂所教授で日本中世史が専門というだけあって、説得力のある内容である。
この記事は次のような言葉で始まる。
私たちは、小学校のころからずっと、日本という国について「1つの言語を使う、1つの民族が、1つの国家を形成し、長い伝統を紡いできた」と教わってきました。近年でも、そうしたイメージで日本を語る政治家がいらっしゃいます。
(中略)
この問いを考えていくうえで、まず押さえるべき視点は「日本とは、もともと西高東低の国だった」ということ。
「1つの言語を使う、1つの民族が、1つの国家を形成」というテーゼについては、私は幼い頃から「それ、違うよね」と感じていた。だって、私が日頃使っていた庄内弁は、ラジオから聞こえてくる「日本語」と比べたら、ほとんど外国語なのだもの(参照 1、参照 2、参照 3)。
庄内弁がどうしてわかりにくいかと言えば、それはいわゆる現代の「共通語」の訛りではなく、日本語の「古語」が元になって異次元的なほど訛っているからなのだ。
そしてその「古語」の系譜は関西の方に脈々と伝わっているが、それなりにバージョンアップされた上で、現在の「関西弁」になっている。しかし庄内弁から津軽弁にかけての地域は、「訛った古語がそのまま残った」ようなものなので、現在の「日本語」からはかなりかけ離れてしまったわけだ。
同じ東北でも、太平洋側は関東言葉の訛りなので、成り立ちがかなり違う。今住んでいるつくば周辺から福島、宮城に北上すると、その「無アクセント」加減(「箸/橋」「雨/飴」「柿/牡蠣」などの区別が付かない)がそっくりであることに感心してしまうほどだ
話は東洋経済 ONLINE の記事に戻るが、本郷氏は関西地方が古代日本の中心であったことに関して、大陸と最も近い北九州から瀬戸内を経由して引っ込んだあたりが、「安全」という視点から最も妥当ということだったのではないかと指摘されている。これも納得できる話だ。
そういうわけで、古代日本の中心は今の「関西」であり、そこからフロンティアを東へ東へと移動させてきたわけだ。そしてどんどん移動させても、今の東北は「地の果て」だったわけである。それで「出羽」と「陸奥」の 2つの国しかなかったわけだ。
2013年 11月 4日付の「旧国名をしっかりモノにしてみたい」という記事で、私は次のように書いている。
なにしろ東北方面は、太平洋側の「陸奥(むつ)」と日本海側の「出羽(でわ)」の、2つしかない。畿内からみれば地の果てというわけで、明治になる前はこんなチョー大雑把な区分けで済ませられていたのである。
(中略)
東北の大雑把さに比べると、西日本は今の府県よりもずっときめ細かく分けられていて、覚えにくくてたまらない。とにかく今の大阪府という狭い地域に、「摂津」「河内」「和泉」という 3つの国が存在していたのだ。
というわけで、庄内生まれの私は、日本の「西高東低」感覚を、学問的に学ぶ以前から「身体感覚」みたいにわかっていた。そして「辺境」の地で生まれ育ちながら、いろいろなメディアを通して「中央」の文化を、ほぼ「異国文化」的な感覚で取り入れてきたという実感がある。
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コメント
旧国名の記事、今回初めて読ませてもらいました。ちなみに私は白地図(国境の線が表示されているもの)があれば旧国名を全部挙げられます(と、珍しくtakさんに自慢できて嬉しい)。
最近調べて「おお」となったのが北海道の成り立ちです。明治維新の際、なんと石狩国・十勝国など「11か国」を作ったそうで。それら複数の国があったからこそ、東海道や西海道に倣って「北海道」という地方名にまとめたと。それが廃藩置県を経て「結局1つの行政単位にした方がいい」ってことで、「道」が県と同格になったようです。
11か国時代の名残として、今も北海道には「三国峠」があったりするんですよ。
投稿: らむね | 2021年8月13日 21:02
らむね さん:
>ちなみに私は白地図(国境の線が表示されているもの)があれば旧国名を全部挙げられます
それはスゴい! 大したものです!
「北海道」の「国名」については、ほとんど知りませんでした。らむねさんのコメントをきっかけに調べてみて理解できました。ありがとうございます。
投稿: tak | 2021年8月14日 10:02