「いらち」って、関西方言と言い切っていいの?
昨日の記事で「麻生さんは結構いらちみたいだから・・・」と書いて、念のため「いらち」という言葉から Weblio 辞書にリンクを張らせてもらった。リンク先を Weblio にしたのは、"動詞「いらつ」の連用形の名詞化" と、極めて適切な説明が 3つの辞書から引用してあったからである。
ただ「いらち」でググってみると以下のように、この言葉を「関西方言」としているページが目立つ。
大阪人、ホンマに「いらち」? とことん調査隊(冒頭で"「いらち」とは関西地方の方言" としている)
関西人の皆様、「いらち」は標準語ではありません 全国調査の結果→約半数が「使わない」
笑える国語辞典「いらち」の項(関西地方の方言としている)
【関西弁】どういう意味なのかわかりにくい関西の言葉ランキング(2020年調査)TOP20!(「いらち」は 13位にランクインしている)
ほかにも「『いらち』は関西方言」としているページはあまたあるが、この「関西方言」ということに私はかなり反発してしまうのである。「関西方言」というより、「古来よりの標準語」である上方言葉を、ほかの地域ではこなしきれなかったということなんじゃあるまいか。
なにしろ現在の「標準語」とされているのは、明治以降に新首都東京の「山の手言葉」を基本として作られたものであって、それ以前は東国の「江戸言葉」でしかなかった。その「江戸言葉」の中に、「いらち」という単語が見当たらなかったので、「いわゆる標準語」から外れてしまったのである。
「いらち」は、同じ「関西弁」と称される中でも「いちびり」や「めばちこ」などの俗語とは違い、「苛つ(いらつ)」という正しい日本語(既に「古語」と化してはいるが)の連用形の名詞化という、はっきりとした根拠のある言葉なのである。これを「関西方言」として片付けるのは、あまりにも忍びない。
ちなみに上述の "大阪人、ホンマに「いらち」? とことん調査隊" という日本経済新聞の記事は、次のような記述で締めくくられている。
梅田駅の外に出ると広い横断歩道があり、大阪府民がいらちとの評判を世の中に広めた有名な待ち時間表示付き信号がある。ここが表示付き信号の発祥かは分からなかったが、青信号に変わり大勢が速足で渡り始める姿をみていると、大阪府民はやはりいらちだと感じた。
というわけで、「いらち」という言葉は大阪人の気質と切り離しては語られない。これは「いらち」と、やや「ち」をやや強調する関西特有のアクセント(東京人はどうしても「いらち」と、平板で発音してしまう)とともに、標準語に取り入れられにくい要素なのだろう。
典型的な江戸弁の場合は「いらち」ではなく、「気が短い」というのだろう。「てやんでぇ、俺ぁ、江戸っ子で気が短けえんでぇ!」ということになる。しかしこれ、「いらち」と似たようなものなのかもしれないが、ニュアンスには大きな違いがある。
「いらち」というのは、やや自嘲的なニュアンスを含む奥行きあるが、「気が短い」というのは、ただひたすら単純で、軽薄なまでに外向きである。このあたりからして、東西の気質と文化の違いは大きいと言うべきだろう。
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コメント
あっちの人は方言の話になるととかく「こっちが本当の日本語だ」と言うのでめんどくさいです。
以前数人でマムシの話になったとき「マムシは魚のエサだ」と言うのです。ほか何人か困惑しながら会話を続けると、どうやら海釣りに使うイソメの大きいのを「マムシ」と言うのだそうで、いっぽうでマムシのことは「はめ」だそう。そのうえ「蛇のことをマムシと言うなど聞いたことも無い」と。そういう言い方をするのはわかりますが、今の日本で私と同年代の人間がマムシという毒蛇のことを知らないわけがありません。なにが気に障ったのか彼はそれから頑なに「はめ」を使い続け、場は白けてしまいました。
投稿: らむね | 2021年10月 6日 00:15
らむね:
「はめ」までいってしまったら、「いちびり」や「めばちこ」よりさらに深いところにあるものと認識してもらいたいものですね ^^;)
投稿: tak | 2021年10月 6日 06:56
西関東弁地域でで生まれ育ち、大阪生まれの四国人の親を持つ私はマムシと聞くと三つのうちのどれかな?と一瞬考えます。
1.蝮
2.鰻のかば焼き
3.釣りエサのマムシ(イワイソメ)
とは言え用が有って中四国にいるときだけですが。
今は東関東弁地域で人生の半分以上を過ごしています。
なので言葉が良く混じります。
投稿: automo | 2021年10月 6日 08:25
automo さん:
>西関東弁地域でで生まれ育ち、大阪生まれの四国人の親を持つ
>今は東関東弁地域で人生の半分以上を過ごしています
かなり入り組んでますね (^o^)
文化の重層性をモノにして、それを強みにされているとお見受けする次第です。
投稿: tak | 2021年10月 6日 12:24
「気が短い」と言えばそうですが、「合理的」の基礎があって、先んじて行動する方々のお姿が、「いらち」に集約されているのでしょうか。
上方商人主義とまでは申しませんが、「トロトロしてたらいてまうどぉ〜!」ってのも、「きちんと手順を追って仕事をこなせば早く終わるもの」、の裏返しだと、当時の大阪の先輩に聞きました。
クリエイトが必要な仕事には合わないとは思いますが、まぁ一理あるなぁとも思いました。
投稿: 乙痴庵 | 2021年10月11日 17:52
乙痴庵 さん:
>「きちんと手順を追って仕事をこなせば早く終わるもの」、の裏返し
なるほど、なるほど。
投稿: tak | 2021年10月11日 18:15
えせ関西人です。
本題とは 完全に離れますが、
いらち は「ら」の部分を 少し高く発音するような気がします。 どうなんでしょか -> どなたか 本場の人。
投稿: Sam.Y | 2021年10月18日 20:54
Sam.Y さん:
関東人はどうしても平板で言いがちですが、関西人が「あの人、いらちやから・・・」なんて言う場合は、多少「ち」が高めという印象ですね。
投稿: tak | 2021年10月19日 08:21