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2021年10月 2日

「台風一過」という四文字熟語への違和感

下の写真は今朝の 6時過ぎの東の空。昨日の夕方から夜半までは台風 16号の影響でかなりの風雨だったが、やがて静かになり、日が昇り始めるとご覧のような快晴だった。川面に波もなく、鏡のように朝日が映っている。

211002

朝のラジオではキャスターたちが判で押したように「関東地方は『台風一過の青空』が広がっています」と言っている。まあ、そう言いたくなるのも無理もない。ほかにどう言ったらいいんだというほどの「台風一過」ぶりである。

ところでこの言葉、子どもの頃は決まって「台風一家の青空」なんて書くやつがいて、「バカだなあ、それは昔からある言葉で『台風一過』と書くんだよ」と嗤われていたものだ。ただ私としては、これには少なからぬ違和感を覚えていたのである。

というのは、どの放送を聞いても「たいふうっかの青空」と、「っか」の方にだけアクセントをおいて発音する人が多かったからだ(ちなみに、今も多い)。「台風一過」なら、「たいっか」と、2箇所にアクセントをおいてもらいたいものだと、ずっと思ってきた。

思うにこの「台風一過」という四文字熟語、日本語としてまだこなれ切っていないんじゃあるまいか。いにしえの昔からそう言い習わしてきたわけじゃないんだし。

何しろ「台風」という言葉が生まれたのは、明治時代のこととされ、英語の ”typhoon" を取り入れる際にその音を生かして気象用語の「台風」となったと言われている。元々は中国語の「大風」のようだが、それがダイレクトに取り入れられたのではなく、英語を介したものというのが定説だ。

さらにこの「台風」という気象用語が一般にも知られて定着したのは、どうやら大正を経過して昭和初期になってからのことらしい。徳島県立文書館のサイトに『初めて名前が付いた台風 “室戸台風”』というページがあり、次のように書かれている。

「台風」という言葉自体も、それが定着するまでには色々な呼び名があり、その言葉が定着したのは 室戸台風襲来の数年前、昭和初期と言われています。

なんだ、ということは、日本人が「台風」という言葉をフツーに使うようになってから、まだ 100年経っていないんじゃないか。言葉としては新参者もいいところだ。

ということは、「台風一過」という四文字熟語が生まれたのは少なくとも昭和初期より後ということになるので、さらに新参者の言葉である。誰が言い始めたのかは今となっては知るよしもないが、何となく「ことさら感」のあるもったいぶった言い方だ。

ちなみに「一過」という言葉は『大辞林』には次のようにある。

いっか — くわ【一過】

① さっと通り過ぎること。「台風 —」
② 一度ざっと目を通すこと。
③ ほんの僅かの間。「— ばかりでほんのうわきといふものだ/洒落本/夜鄽行灯」

つまり「台風一過」というのは「一つの台風が(一度)過ぎてしまった」というような一般的な認識とはビミョーに違って、言葉そのものとしては「台風がさっと通り過ぎた」ということを言うようなのだ。ふぅむ、なるほどね。

これ、結構な被害を蒙った地域の人にしてみれば「決して『さっと通り過ぎた』というわけじゃないよ」と言いたくなるかもしれないが、まあ、何しろ新参者の言葉なので、しっくりくるという段階にまで至っていないのだね。「台風一過の青空」という決まり文句以外にあまり使い途がないのも道理だ。

というわけで、この言葉に関する私の違和感もむべなるかなと納得した次第である。

 

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言葉」カテゴリの記事

コメント

名称に関してはなるほど、昭和初期ですか。
台風に関する歴史って少し調べたことがあるんですが、いまいちわからなかったんですよねえ。

今でこそ衛星画像で渦を巻いた雲の形を誰もが知っていますが、それ以前はどのように認知されていたのか。「強い雨雲と風を伴ったひと固まり」と認知されていたのか。南海上で発生し日本に接近し離れていくものだといつわかったのか。衛星で見るまで雲が渦状だとはわからなかったのか。

アメリカの気象衛星の実用使用が60年代半ば、ひまわりが77年ですか。たくさんの子どものころは台風をどのように認識されてましたか?

投稿: らむね | 2021年10月 2日 16:23

らむね さん:

そのように考えると、台風の認識の仕方って、かなり新しいものなんですね。

夏目漱石の中編小説に『野分』というのがありますから、明治の時代は、まさに野原の草を分けるほどの強風というイメージだったんでしょうね。

私の家にテレビが入ったのは小学校 6年生の年(1964年 第1回東京オリンピックの 2〜3ヶ月前)でしたので、その前までは、「台風」といえば新聞の天気図に出てくる「密な同心円みたいなやつ」という認識でしかありませんでした。

天気図にそれが現れると、しばらくしてから、ラジオで「九州のどこそこに上陸」みたいなニュースになり、東北の子どもとしては「九州や四国の人は大変だなあ」ぐらいに思うのみで、かなり「他人事」でした。東北にまで台風が来るなんて、稀なことでしたし。

最近はテレビで、衛星画像とリアルタイムの地上映像がリンクされて報道され、それだけでなく、台風が強いままの状態で北上したりして、東北の人でも「ナマ台風」を体験しちゃいますから、時代はかなり変わったんですね。

投稿: tak | 2021年10月 2日 19:46

たくさん ではないですが(ちょっとだけ若い)、"WB29 台風" あたりでググってみると 子供時代の記憶がよみがえりますね。

投稿: Sam.Y | 2021年10月 4日 12:52

Sam.Y さん:

台風観測にアメリカの軍用機が使われていたとは聞いたことがありますが、「WB 29」というのは、初めて知りました。

台風を上から見た写真なんていうのは、そうした飛行機から撮影したんでしょうかね。

投稿: tak | 2021年10月 4日 17:18

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