「大根役者」を巡る冒険
文化の日の記事とするにはちょっと語弊がありそうなので、前日の今日のうちに「大根役者」について書かせていただく。言うまでもなく、下手くそな役者のことだ。
今どきの歌舞伎座にはそんな客はいないが、江戸の昔は下手な役者に向かい、大向こうから大声で「でぇこ!」(「大根」の江戸訛り)と罵る客がいたらしい。いや、そういえば 40年ぐらい前に一度だけ、「ダイコン!」と叫ぶ声が歌舞伎座の幕見席の方から聞こえて、驚いたことがあるな。
若い頃には、「大根は消化がよくて食あたりしないから、『当たらない役者』を『大根役者』と言うんだよ」と教わったものだ。ところが Japaaan の "伝統芸能とのつながりが。なぜ演技が下手な人を「大根役者」と言うのか?" という記事によれば、この言葉の由来はそれだけじゃないらしい。
例えば「大根は食あたりしない(=どんな役をやっても当たらない、ヒットしない役者)」というものや、役者が配役を外されることを "おろす" と表現することから、これと大根おろしをかけたという説などがあります。
さらには、大根の白い色と演技にたしなみのない素人(しろうと)という言葉をかけあわせたという説まで実に様々。ひとつの言葉ですが、色々な説の由来があるのは面白いですよね。
ほかにも、「馬の脚」(下図:「蔦吉ファンサイト」より)しかできないような役者のことを「大根足」からの連想で言ったとの説もあるらしい。しかし実際問題として、この説はこじつけとしても無理筋過ぎる気がする。馬の脚に向かって「でぇこ!」と言ってもしょうがない。
とまあ「これでもか!」というほど、いろいろな説が挙げられている。ただ私としては、これらは最も知られる「当たらない役者」説も含めて、後からこじつけた「洒落」だと思っているのだよね。「それを言っちゃあ、おしまいだよ」と言われてしまいそうだが。
元々はただ単純に、大根という野菜のイメージから言われ始めたと考える方が素直だろう。ぶっとくて、ごろんとして、繊細な感じから遠く、華やかさに欠ける。さらに沢庵を漬ける前にまとめて天日干しする光景が「十把一からげ」になってしまい、「その他大勢」感が強まる。
「大根」という野菜が、そうしたありがたくないイメージを一身に背負ってしまったんじゃなかろうか。また、江戸時代には「練馬大根」というのがかなり有名になっていたので、江戸の中心から離れたひなびたイメージというのも加わったのかもしれない。
練馬大根は本当はとてもおいしいものなので、大根と練馬の人たちには申し訳ないが、とにかく私としてはそのように考えている。
ただ最近になって、大根はいろいろな料理に使いやすいので「使い回しの効く器用な役者」とか、おでんの具として味が染みておいしいことから「味わいのある役者」みたいな、反語的な意味で使われることもあるのだという。言葉は変化するものとはいえ、年月というのはおそろしい。
ちなみに岸田首相は、「台詞もまともに言えない大根役者」の前任者に対して、「台詞覚えがいいだけの大根役者」という印象が否めないのだよね。果たして、これから「当たり」が取れるかなあ。
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コメント
すでに糟や糠に漬かっている大根かも…。
投稿: 乙痴庵 | 2021年11月 3日 12:09
乙痴庵 さん:
ハリが失われて、シナシナになっちゃってますね ^^;)
投稿: tak | 2021年11月 3日 13:00