「『問題』と『課題』の混同」という「問題」
世の中の広告関連の「プランナー」とか「マーケティング担当」とかいう人の言うことって、「はぁ?」となってしまうことが少なからずある。東洋経済 ONLINE の 12月 9日付 "「問題」と「課題」を区別できない人がしがちな失敗" というのも、その一つじゃなかろうか。
この記事、「意外と違いがわからず使っている場合もある」というサブタイトル付きで、電通の「戦略プランナー」という肩書きの人の書いたものだが、まずは次のように始まる。
「課題は、20代女性間の知名度が低いことです」
ビジネスシーンにおいて、このような発言には注意が必要です。なぜなら、この発言は、「課題は〜」と言いながら、「課題」になっていないからです。「20代女性からの知名度が低い」は、「課題」ではなく、「問題」に相当します。
こんなの当たり前すぎて、今さら言われるまでもないと思うがなあ。ところが文章は次のように続く。
そして、にわかに信じがたいかもしれませんが、この2つの言葉を区別できないと、結果的に商品やサービスがヒットする確率が大幅に下がってしまうのです。私も入社してからしばらくの間は、この 2つの言葉の違いをまったくわかっていませんでした。
いやはや、驚いた。広告の世界って、スゴいなあ(皮肉的に)と思うほかない。
ただ、もしかしたら「日本語だと混同しやすい」という話なのかもしれないと思い直し、手持ちの ”Wisdom English Japanese Dictionary” にあたってみた。その結果は以下の通り。
問題: 【解決を要する事項】 a question; (困難な)a problem; (政治・経済上の)an issue; (研究課題、話題)a subject; (警察などの専門機関の調査を要する)a case.
課題:【解決を要する問題】a problem; (論争の)a question; (差し迫った)an issue; (練習用の)an exsercise; (宿題)an assignment.
なんとまあ、さらに驚いてしまった。これでは 2つの言葉の違いがほとんど明確にならない。なるほど、こんな感じで言葉を使ったら混乱するのも道理である。世の中には「雰囲気のモノ」というのがやたら多いから、「問題」と「課題」の違いというのもそんなものなのかもしれない。
とはいえ、ビジネス、とくにマーケティングということになれば、話は別だ。きちんと明確に区別して使わないと、お話にならない。
私が以前、日常的に英語を使う仕事をしていた頃は、マーケティング的な「課題」という概念を表すには "challenge" という言葉を使うことが多かったように思う。試しに "challenge" を同じ辞書で引いてみると、名詞としてはこんなふうになる。
...するという/...にとっての(やりがいのある)課題。意欲をそそるもの
うむ、ようやく少しまともになった。訳語としてちゃんと「課題」とあるしね。念のため断っておくが、この場合、「チャレンジ」は「挑戦する」という動詞なのだという固定観念からちょっとだけ離れてもらいたい。
要するに「問題」は "problem" で、「課題」は "challenge" と切り分ければすっきりするのだ。"Problem" という視点のままでいれば手をこまねくだけという状態に陥りやすいが、"challenge" の視点を持ち込めば、解決に取り組む意欲が湧くということもあるし。
「『問題』と『課題』の混同」という「問題」を解決する「課題」に取り組むには、 "problem" と "challenge" という視点がポイントになるってことだ。「問題(problem)」をきちんと分析することで、解決に取り組むに値する「課題(challenge)」として明確に認識される。
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コメント
ことの始点と行動指針の違い、と言う認識でオッケーですよね。
投稿: 乙痴庵 | 2021年12月12日 13:25
乙痴庵 さん:
なるほど、その捉え方も可能ですね。
投稿: tak | 2021年12月12日 18:31