「お世話になっています」を AI で英訳すると・・・
東洋経済 ONLINE に "AI で「お世話になっています」を英訳してみると" という記事がある。レノボ・ジャパン社長のデビット・ベネット氏の書かれたものだ。
ベネット氏は最近の AI 翻訳について、"現在 GPT-3 という AI や、DeepL という AI の評判がかなりよく、率直にいって英語の翻訳については「ほぼ完璧」と言えます" と書いている。記事には DeepL を使って英文を日本語に翻訳したものが載せられているが、確かにかなり自然な日本語になっている。
とはいいながら、ベネット氏は「私は引き続き外国語のスキルは必要だと思っています」としている。それは日常の会話などを適切に翻訳するという点において、AI はまだまだだからということのようだ。
例えば、"How are you?" という言葉について、ベネット氏は次のように述べる。
本来「あなたはどうですか=元気ですか?」という意味です。しかし突然「元気ですか?」という挨拶をする日本人は私の知るかぎりアントニオ猪木さんくらいで、他にはあまりいませんね。
このくらい一般的な言葉であれば AI は学習していて「こんにちは」と訳します。ただ、これがビジネスの場であればどうでしょう。おそらく「こんにちは」といきなり挨拶をする営業マンがいたらざわつくのではないでしょうか。
確かに難しい問題だ。その場その場の空気を読んで、最も適切な言葉に置き換えるしかなく、時には大胆な意訳も必要になる。
ビジネス上の挨拶としては「いつもお世話になっています」が登場し、これは日本語としては自然だが、AI が英訳すると "Thank you for your help." となり、かなり不自然なことになる。
さらに日本語のビジネスレターの書き出しの決まり文句、「貴社ますますご清栄のこととお喜び申し上げます」を英訳して、"I hope that your company is doing well." なんてやったら、かなりナンセンスだろう。実際にはこんなの、訳しようがないね。
というわけで、ベネット氏は「ビジネスの報告をする時、対立する意見を持つ人と意見交換をする時、あるいは異性に交際を申し出る時、こうしたシーンを AI に任せる気にはならないです」と書いている。これについては、私もまったく同感だ。
AI がかなり進化した今でも、やはり語学力というのは必要なのだろう。さらに実際の場面においては単に言葉の翻訳という問題だけではなく、「比較文化論」の視点まで必要になることが多い。
複数の言語が話せるということは、1つのテーマに関して別の文化的アプローチで考えることができるということになるので、確実に厚みのある思考ができると思う。
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