「同定」・・・名前を知ることの大切さ
ペレ出版の本に『図鑑を見ても名前がわからないのはなぜか?』というのがあり、著者の須黒達巳氏が出版元のサイトでその解説を書かれている(参照)。これがなかなかおもしろい。
生きものの種を確定させることを、専門用語で「同定」というのだそうだ。ところがこの「同定」というのはなかなか難しい。図鑑とにらめっこしても、似たようなのが多くてなかなか特定に、いや、同定に至らない。
著者の須黒氏は、「勤務先の敷地内で昆虫とクモ800種以上を同定してきた、同定大好き」な人だそうで、そうした自分をこんな風に表現している。
これはもう、ある種病的なほどに「とにかくこいつの名前を知りたい」という衝動が湧いてきます。まさに「君の名は。」です。
そしてこの本は、「なぜうまく同定できないのか」「どういうプロセスで同定ができるようになるのか」を真剣に考えて書かれたものということである。
この「同定」ということに関しては、私ももう一つのブログ「和歌ログ」で、裏の川にやってくる水鳥たちを歌に詠み込みたくて、鳥類図鑑で名前を調べたりするのだが、なかなか難しく感じている。例えば「カモ」と一口に言っても、カルガモ、マガモ、コガモ、ヨシガモなど、細かく言えばキリがない。
しっかりと同定できれば、自分の読んだ歌に責任も持てるし、愛着も湧く。しかし、「多分、マガモなんだろうなあ」程度だと、「間違ってても、責めないでね」みたいに、ちょっとおずおずと詠んでしまうことになり、確信的になれないのだ。
これ、生き物の名前だけとも限らない。須黒氏が「名を知らぬものは、視界に入っても『景色の一部』として処理されます」と書かれているように、自分の周囲と意識的な繋がりがもてないのである。
旅をしている時でも、間近に見える山の名前がわかればその土地との結びつきが強まるが、「単なる山」と思っている限りは、通り過ぎれば終わりである。今どきは故郷の山々の名前さえおぼつかない人が少なくないようだが、それってかなり残念なことだと思う。
自分の生まれた土地との結びつきが希薄というのは、人生そのものも薄くなってしまうような気がするしてしまう。そんなわけで、生物だけでなく、いろいろなものの「名前を知る」ということは、対象に自覚的にアプローチする重要な一歩なのだね。
例えば自動車マニアは内外の車種にやたら詳しいし、グルメ同士の会話には私の知らない食い物の名前(ほとんどがカタカナ)がぞろぞろ出てくる。私はこの 2つの分野はからきしダメなので、「すげえなあ」と思うほかないのだが。
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コメント
「同定」と言う言葉は主に科学全般に使われる言葉ですね。
「元素名を同定する」とか「ガスの種類を同定」するとか、このように使われる言葉ですね。
因みに、私は街の古い写真を見ていつ頃撮られたかを「同定」するのに自信があります。写真の中に写っている車が数種類あれば2年くらいの誤差で当てられます。これを「同定」と言っていいのか分かりませんが。
*アンドロイドでは「同定」は変換できません。i-phone だとすぐ出てきますね。それほど特殊な単語ではないのですけどね。
投稿: ハマッコー | 2022年2月14日 23:52
ハマッコー さん:
「同定」は、生物学だけではなく、科学一般でも使われているんですね。知りませんでした。
クルマで年代がわかるというのは、スゴいですね (^o^)
ちなみに ATOK でもあっさり変換できました。
投稿: tak | 2022年2月15日 08:39
「The Origin of Snow」という日本未訳の掌編小説の最後の方に
”Everywhere, it was named. And by naming, made perpetual, since words are magic, then, now.”
というフレーズが出てくるのですけれど、ちょっとそれを想起させる話ですね。
投稿: 柘榴 | 2022年2月16日 05:40
柘榴 さん:
いいフレーズですね!『ヨハネの福音書』を思い出してしまいました。
ちなみにググってみたら、翻訳してる人がいました。
http://www.dark-crow.com/blog/2007/06/the_origin_of_snow_1.html
投稿: tak | 2022年2月16日 07:10