「膳」と「ちゃぶ台」と「ステテコ」を巡る冒険
2月 18日に「江戸の昔の蕎麦屋に、椅子とテーブルなんてなかった」という記事を書いている時から気にかかっていたのが、日本式の食事スタイルについてである。下の写真は Pinterest から拝借した懐かしき昭和の食事風景(参照)だが、お父さんのステテコ姿とお母さんのパーマ髪が妙に印象的だ。
18日の記事では蕎麦をたぐる時には蕎麦猪口を手に持つと書いているが、よく考えれば日本の食事で食器を手に持つのは、蕎麦を食う時だけに限らない。飯を食うときには茶碗を持ち上げて箸を使うし、汁も汁椀を持ち上げ、直接口を付けてすする。いわゆる「洋食」では決して見られない作法だ。
今は日本でも「椅子とテーブル」を使った食事がフツーになっているが、それ以前は上の写真のような「ちゃぶ台」が主流だった。ただしこの「ちゃぶ台」が登場したのは明治以後のことで、それ以前はもっぱら「膳」を使っていた。Wikipadia には次のように記されている(参照)。
貴族社会では同じ階級のものが同一食卓を囲む場合があったが、武士が強い支配力を持つようになると上下の人間関係がより重要視されるようになり、ほぼ全ての社会において膳を使用した食事が行われはじめた。
「膳」にもいろいろあり、「親子の住まい方教室」というサイトの「お膳の始まり」というページを見ると、結構なバラエティである。
このサイトでは「お膳を使った食事」というページに、「膳」というものが日本独特の食事スタイルの形成に大きな役割を果たしたことが詳しく書かれている。食事作法以前の問題として、食事の場所、順番、並ぶ順などで家の中の人間の上下関係が明確になる。「膳」は封建社会の価値感そのものだ。
というわけで「膳」というのは、形の上だけでなく、コンセプトからして円卓とはまったく違う発想なのだ。さらに言えば、「膳」を使うと茶碗を持ち上げるのはごく自然の成り行きだ。そうしないともろに這いつくばって、文字通りの「犬食い」になってしまうので。
この「膳」に替わって「ちゃぶ台」が普及するには、明治という「文明開化」の時代を待たなければならなかったのだろう。さらに一番上の写真のような六畳間での「家族団らん」の象徴となるまでには、昭和、しかも戦後の時代を待たなければならなかったのかもしれない。
ちなみに Wikipedia の「ちゃぶ台」のページは、その語源についての解説から始まっていて、「卓袱台のほか、茶袱台、茶部台、食机」などの当て字があるという。さらに「岩手県、富山県、岐阜県、滋賀県、鳥取県、島根県、愛媛県などの一部では飯台と呼称される場合がある」と書かれている(参照)。
ちなみに「飯台」の読みは、「めしだい」ではなく「はんだい」。私の生まれた山形県庄内では訛って「はんでん」なんて言っていたが、今どきはいくら庄内でも、若い人には通じないだろう。昭和は既に遠い昔の物語で、ほとんどフォークロアの世界に入っている。
さらに写真をよく見ると、「昭和のちゃぶ台」はかなり低い。ソフトウェアとしての家族の座る位置は見かけ上で民主化されても、ハードウェアとしての「高さ」は相変わらず「膳」のスタンダードを引きずっていたようなのだ。Wikipedia にも次のように書かれている(参照)。
高さは 15 cmから 24 cmくらいが一般的であったが、これは時代を経る毎に高くなり、現在は 30 cm前後のものが一般化している。
というわけで、明治期に登場した「ちゃぶ台」は、平成以後の御代ではお父さんのステテコ姿やお母さんのパーマ髪と歩調を揃えるかのように、急ピッチで姿を消しつつあるようなのである(参照)。
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コメント
ひいとてっく
が、現代版ステテコ様ですかねぇ。
お母さんのパーマネントは、さすがに見なくなりました。
先日(?ずぅっと前)ラジオで聞きましたが、「ステテコ、モモヒキ、サルマタの違いって…。」と言う放送でしたが、サルマタ(猿股)は尻の部分に「開脚したときに尻の部分が裂けない工夫がある」ってことで、仕事用に使ったことがあります。
ほうほう。開脚したときに突っ張らないことは良く分かりました。
ただ、なんか開脚の開放感がありすぎて、はき古したあとは使わなくなりました。
投稿: 乙痴庵 | 2022年2月28日 21:04
乙痴庵 さん:
広義の「サルマタ」はパンツ一般なんでしょうけど、狭義は「なるほど、なるほど!」と理解できます。
最近はあまり見ませんね。
投稿: tak | 2022年2月28日 21:18