「ピンキリ」と「シカト」の語源
戦争の話をシリアスに書いた翌日にこんな話題で恐縮だが、日本のカード・ゲームに「花札」というのがある。江戸時代からもっぱら賭博に用いられたということで、イメージはあまりよくないものの、私は花札のデザインというのは、日本における秀逸なポップ・カルチャーだと思っている。
ポップ・カルチャーだけに、いろいろな俗語とも関係している。今日は「ピンキリ」と「シカト」に触れてみようと思う。
花札は「花カルタ」とも言い、「カルタ(carta)」というのはポルトガル語で「札、カード」を指す(英語なら "card")。日本のカードゲームは総じて安土桃山時代にポルトガルの宣教師によって伝えられたというのが定説なので、ポルトガルとの関連が深いのは間違いない。
「ピンキリ」というのは、「ピンからキリまで」(「一から十まで」「最上から最低まで」の意)の短縮形。
この「ピン」は、ポルトガル語の「ピンタ(pinta)」 から来ているという。「ピンタ」は英語なら "point" で「点」という意味だが、サイコロで「1」を表すのが「点一つ」なので、「1 、つまり、ものごとの始まり」を表すようにもなったらしい。「ピン」の説明は、これで難なくついた。
問題は「キリ」である。これには「『キリ』はカルタの 12枚目をポルトガル語で "cruz" ということから来ていて、『最終』を意味する」とか、「歌舞伎で最終幕を「切り幕」と言うように、『切り』は『最後』を表す」など、いろいろな説がある。
魅力的なのは「花札で最後の『師走』(12月)を表すのが『桐』の図柄だから」という説だ。つい「それで決まり!」と言いたくなりそうだが、よく考えればそれだと、むしろ「松から桐まで」で「マツキリ」にならなければいけないので、やっぱりこじつけなのだろう。
というわけで、「ピンキリ」という言葉は、花札ととても近い関係があるものの、直接的に花札が語源となったわけじゃないということに落ちつきそうだ。個人的にはとても残念な気分なのだが。
一方、「シカト」の方はもろに単純だ。花札で「神無月(10月)」を表す鹿がそっぽを向いているので、「知らんぷりをする、とぼける、無視する」とかいう意味で使われるようになったという。これはかなり確かな説である。
ただ、「若者言葉」として使われ始めたわけでは決してない。「語源由来辞典」には次のようにある(参照)。
警視庁刑事部による『警察隠語類集』(1956年)には、「しかとう とぼける。花札のモミヂの鹿は十でありその鹿が横を向いているところから」とあり、この頃はまだ「シカト」ではなく「しかとう」で、賭博師の隠語であったことがわかる。
その数年後には不良少年の間で使われるようになり、「しかとう」から「シカト」に変化した。
へえ、元は「しかとう」だったのだね。調べてみるものである。これで「シカト」の語源が確実に花札であることが、よりはっきりした。
ちなみに花札の「桐」の上にいる鳥は「鳳凰」で、「松」のタン札に書いてあるのは「あのよろし」じゃなくて「あかよろし」(「2文字めは「可」の変体仮名)なので、そのあたり、どうぞ
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コメント
一から十まで
なのに…。
一月から十二月までの流れを表す…。
二か月分、返せ。
投稿: 乙痴庵 | 2022年2月28日 20:50
乙痴庵 さん:
「キリ」は直接には「十」を意味するわけではないようですけど、なんとなくそんなイメージはありますね。
給料は返したくないですけど ^^;)
投稿: tak | 2022年2月28日 21:08
花札でおいちょかぶをやると,11月12月は10として数えますね。
また、親の総取りの4と1 9と1 は、シッピン クッピン と
呼びますね。4と9が親の一枚目の時,親は「とんがれ,とんがれ」と
言って、松の先っぽの黄色い丸が出て来いでてこいと,札を擦って
少しづつ持ち上げて行きますね。
最近では、花札でおいちょかぶをやる人は少ないでしょうが、
私は若い時、おいちょかぶとこいこいを読んで良くやりました。
任天堂が、テレビゲームにを始める前には、花札の任天堂でしたね。
投稿: ヒロ | 2022年3月 2日 07:57
ヒロ さん:
すみません。私、「おいちょかぶ」は知らないんですよ ^^;)
「こいこい」も、私の知ってるのは数あるローカル・ルールの一つのようです。人によって理解が違うので、なかなか気軽にはできませんね。
というわけで、あのデザインをポップアートとして楽しむのが一番のようです (^o^)
投稿: tak | 2022年3月 2日 13:25