「コーチャーズボックス」という和製野球用語
もう 5日前(春分の日の 3月 21日)の話になるのだが、クルマを運転しながら聞いていた TBS ラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」という番組で、気になる部分があった。野球用語の「コーチャーズボックス」に関する小笠原亘アナウンサー(月曜パートナー)の説明が無茶苦茶だったことである。
それは番組内の「相談は踊る」というコーナーに寄せられた、荒木正博(中日ドラゴンズのコーチ)ファンという横浜在住の方からの相談への関連で語られた。
そもそもの相談というのは、三塁コーチを務めていた荒木コーチが今シーズンから一塁コーチに変わるので、間近に見るためには、ホームチームである横浜ファンばかりの一塁側スタンドに行かなければならず、それが居心地悪いのでどうすればいいかという話である。
まあ、この問題についてはそばに置いとくことにして(来週の 28日までなら Radiko でも聞けるので、どうぞ)、野球音痴のジェーン・スーさんがこだわったのは、小笠原亘アナの「荒木コーチが、三塁側のコーチャーズボックスに・・・云々」という説明の件だ。
彼女は「コーチとコーチャーはどう違うの?」と聞いた。相手は TBS で野球の実況もしているぐらいの、いわば「専門職」なので、当然ながら簡単に答えてくれると思ったのだろう。
ところが小笠原アナは「やることは一緒。コーチがコーチャーもやる」なんてアサッテの方を向いたことを言う。スーさんは当然ながら「何言ってんだ? さっぱりわからない」と反応する。
それに対して小笠原アナはさらに、「コーチは攻撃の時はコーチャーになる」とか「コーチスボックスにいる時は、呼び名だけコーチャー」とか、アサッテどころか再来月みたいなことを言い出す。要するに、自分でもよくわかってないみたいなのだね。「専門職」なのに。
基本的なことを言えば、英語の "coach" は、名詞と動詞の両方の働きをし、名詞としては「指導者」、動詞としては「指導する」という意味を持つ。つまり名詞として使用する場合でも、ことさらに「コーチャー」なんて言う必要はない。
「コーチャーズボックス」は、まともな英語では "coach's box" なのだが、多分、カタカナにした時に「コーチスボックス」なんてのが言いにくいので、いつの間にか「コーチャーズボックス」なんて言うようになったんだろうね。
つまり「『コーチャー』はテキトーな和製英語です」(「プレゼンテーター」みたいなものだね)と言ってしまえば済む話で、上の写真のリンク先でもそのように説明されている。要するに、単なる「雰囲気のもの」である。
ついでに言えば、日本で使われる野球用語は「雰囲気のもの度」が異常なまでに高い。「ナイター」とか「ランニングホームラン」とか「デッドボール」とか、和製英語の宝庫なので、かなり気をつけなければならない。
【付記】
この番組内でのやりとりは、来週の 27日の午前 10時頃までなら Radiko でも聞けるので、興味を持たれた方は大急ぎでどうぞ。問題の箇所は、番組開始後 1時間 10分ぐらいのところからピンポイントで聞くことができる。
また「デッドボール」に関しては、プロ野球関係者の中でも「デットボール」なんて言うオッサンが少なくない(例えば清原某とか)ので、注意が必要だ。「死球」じゃなく「借金球」(debt ball)になっちゃう。
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コメント
ああ、聞くんじゃなかった。これだけ支離滅裂なことを堂々と話すとは。イライラして寝られない気がする。
「そう言えばおかしいですね、次回までに調べておきます」と言ってしまえば済むのになあ。
スリーバントは確かツーストライク(ス)バント、フォアボールはウォークだったと思います。
日本野球のルールブックにはどう書いてあるのでしょうか。
近年、ボールカウントをツースリーからスリーツーと米国の言い方に変えたのですからこの際、野球界はヘンテコ野球英語を見直してもいい頃だと思います。
名選手だったKKFさんは解説中に〝ホワスト″と言い続けてましたね。KYHRさんの〝デットボール″の方がちょっとは救いがあります。いや、やっぱり同じか。
投稿: ハマッコー | 2022年3月27日 02:17
わはは、私は腹を抱えて聞きました(笑)。
スポーツ報知の記事ですが、
https://hochi.news/articles/20220323-OHT1T51229.html?page=1
「巨人・元木大介ヘッド兼オフェンスチーフコーチ(50)が開幕から三塁コーチャーを務めることが23日、決まった。」
スポーツ新聞の記者という、およそ日本人で最も野球用語を扱う人もこう書くみたいですね。どうやら、自チームの攻撃時に1塁と3塁のそばに立って走塁の指示をする人のことを限定して「コーチャー」と言い、それ以外の野球指導をする場合は「コーチ」と言うみたいですね。
ひょっとすると言葉の発生段階では、「コーチャーが立つからコーチャーズボックス」になったのではなく、コーチスボックスが言いにくいせいでコーチャーズボックスが先に成立し、「コーチャーズボックスに立つ人だからコーチャー」になったかも知れませんね。これだと1塁・3塁だけコーチャーと呼ぶ説明がつきます。
あ、コーチャーでゲシュタルト崩壊しかけてきましたw
私の友人に3塁コーチャーをやっているコーチャ好きのコーチャンというのがいまして、よく「コーチャ(高知)あ日本で一番ぜよ」と言って譲らないので私との議論はいつもコーチャく状態ですww
投稿: らむね | 2022年3月27日 07:10
ハマッコー さん:
>「そう言えばおかしいですね、次回までに調べておきます」と言ってしまえば済むのになあ。
業界内の人ほど「そういうもの」と思い込んでいるみたいですね ^^;)
「何がおかしいんだ? 一体何をどう調べろと言うんだ?」みたいな感覚で、当たり前のことを当たり前に疑うことができなくなっているようです。そのせいで、まともな説明もできないんですね。
>日本野球のルールブックにはどう書いてあるのでしょうか。
”Baseball" と「野球」はビミョーに別物と思わないと、そのあたりは整合性が取れないような気がしてきました。
「KKF さん」 って誰かと思ったら、カケフさんのようですね。ググってみて、この人の「ホワスト」は有名だったと初めて知りました。いやはや。
投稿: tak | 2022年3月27日 09:34
らむね さん:
スポーツ報知の記事、「元木大介ヘッドが三塁コーチャーに決定」という見出しも、かなりのものですね ^^;)
「コーチャーズボックス」という変則的な言葉が先に成立して、そこに立つから「コーチャー」になったという推測が、「当たり」なんでしょうね。
最後の一文では、私もゲシュタルト崩壊しかかりました (^o^)
投稿: tak | 2022年3月27日 09:43