「本音」を語って「露悪」に陥った、吉野家常務発言
急な用件が夕方に一段落してやっと帰宅する途中のカーラジ・ニュースで、「吉野家常務が生娘をシャブ漬け云々」みたいな話をしていた。こちらとしては、どうしてそこに私の母校の名前まで出てくるんだという素朴な疑問まで重なって、「一体何のこっちゃ?」と思っていた。
帰宅してウェブのニュースで調べて、ようやくコトの次第がわかった。早稲田大学の開いた社会人向けマーケティング講座で、講師として登壇した吉野家の伊東正明常務(既に解任されたらしいが)が、若い女性を顧客として取り込むための戦略を語った際に、ヤバい発言をしていたらしい(参照)。
いくつかのニュースをまとめると、問題発言の要旨はこんな感じのものだったようだ。
- 田舎から出てきた若い娘が、男に高い料理をおごってもらうようになると、それ以後は牛丼なんて食べなくなる。
- そうなる前に、生娘を「シャブ漬け」にするように「牛丼中毒」にしてしまう。
このレトリックは伊東氏の個人的な価値感からすれば、「本音で語ったユニークなマーケティング論」ということになるのだろう。これまでは結構ウケていたに違いない。
ただ、これには落とし穴がある。その一番大きな穴は、伊東氏が「生粋の吉野家育ちってわけじゃなかった」ということだろう。彼は元々は P&G 社でブランド・マネージメントをしていたが、2017年に独立し、吉野家に常務取締役として招かれたという(参照)。
というわけで、彼の意識の中には「俺は、牛丼なんてダサい食い物のマーケティングのために来てやったんだ」という、思い上がりがあったのだろう。だからこそ「男に高い料理をおごってもらうようになったら、牛丼を食わなくなる」なんて、平気で言えたわけだ。
そこから「シャブ漬けにするように」という発想に行き着くのは、彼流の思考では自然の流れなのだろう。とにかく「本音」で語ろうとすると、こんな風に「やたらと露悪趣味の論理展開」をしたがる人間というのが珍しくない。いや、珍しくないどころか、世の中では珍重されたりする。
そしてこの「アブナい露悪趣味」が妙にウケる環境に馴染みすぎてしまうと、同じようなことを他の場面でも得意満面で語ってしまうようになる。少しは気をつければいいのに、人間というのは「よくよく調子に乗りすぎる動物」なのだね。
そんなような例は政治家の世界ではクサるほど多くて、私は昨年 2月に "「悪くもないのに謝ってやってるんだ」と思ってる人" という記事でうんざりしながら語っている。そういえば、この記事で批判した森喜朗というオッサンも、ワセダ出身だったなあ。伊東正明氏は慶応出身らしいけど。
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コメント
この人は流石にマーケティングのプロですね。中毒患者(顧客)を増やす仕掛けを作るのが彼らの仕事です。
ルイビトン、シャネルなどこれらのブランドは中毒患者(顧客)を作り上げビジネスで大成功しています。フェラーリ中毒、何とかゲーム中毒など数え上げればきりがありません。
ただ、伊藤氏はマーケティングの業界内だけでしか通用しない表現を早稲田大学の開いた社会人向けマーケティング講座で気が緩んだのかうっかり使ってしまった。
顧客と言ったのではインパクトが弱いと考え中毒と言ったのでしょう。
彼は〝講座″という場所を読み切れなかった。どんな人が聞いてるのか読み切れなかった。その意味では1流とは言えないかと思う。
投稿: ハマッコー | 2022年4月19日 23:27
私が一番驚いたのは彼が全く吉野家にも牛丼にも愛情をもっていないこと。中毒者を作るのがマーケッターの仕事だろうけど、それには商品への愛情を持つのが必然と思っていました。
投稿: basara10 | 2022年4月20日 06:11
そういえば、早稲田大学では先月にも女性准教授による性犯罪についての告発がありましたね。なんとも怖い大学ですね。
まあ、外部の男性講師による不謹慎発言は処分されても、内部の女性教員による実際の性犯罪はお咎めなしというガバナンス運用では治安が悪くなるのも当然かな、という印象ですが。
投稿: 柘榴 | 2022年4月20日 07:32
ハマッコー さん:
>彼は〝講座″という場所を読み切れなかった。どんな人が聞いてるのか読み切れなかった。その意味では1流とは言えないかと思う。
そういうことですね。
「限られた世界」で下手に成功しすぎたために、他の世界での振る舞い方を知らなかったんでしょう。
投稿: tak | 2022年4月20日 09:52
basara10 さん:
>私が一番驚いたのは彼が全く吉野家にも牛丼にも愛情をもっていないこと。
今は肉を食わない私ですが、その昔は「牛肉を使った料理で一番旨いのは牛丼」と思ってました。高級ステーキなんかを食っても、牛丼に勝るとは思われませんでしたから。
ただ、牛丼にもピンからキリまであって、吉野家の牛丼はしっかりしていても、場末のどうでもいい店とか、スーパーのレトルトの一番安い奴とかは、「うっ、何じゃコリャ?」と言いたくなるものもありますけどね。
その意味でも吉野家は商品に自信をもっていいはずなんですがね。
ただ、肉を食わなくなって久しい私の目には、もはや「食い物」とは映らなくなってしまいました。それは高級ステーキでも同じことで、単に「気持ち悪いモノ」でしかありません ^^;)
投稿: tak | 2022年4月20日 10:06
柘榴 さん:
そういえば、何だかありましたね。セクハラ受けた男子学生には相当のトラウマになってしまったとかで、まったく困ったもんだ。
学問はできても、色恋沙汰のこなし方を知らずに来てしまったんでしょう。
投稿: tak | 2022年4月20日 10:09
追加投稿:
本日、彼が開発にかかわったとされる「親子丼」を食してみました。
「これほど高品質、美味なものが399円とは驚き」が私の感想です。「牛丼の𠮷野家」が「親子丼の𠮷野家」になるかもしれません。
田舎出の生娘どころか百戦錬磨のおばちゃんでも𠮷野家中毒になる力を秘めてます。「昼食に𠮷野家の牛丼」は女性にとってハードルが高いと感じますが「𠮷野家の親子丼」なら買いやすいでしょうね。
親子丼開発で女性客は確実に増えます。要らん事言わなければ彼にとって親子丼は満塁ホームランになったと思います。人前での発言には気を付けたい。
投稿: ハマッコー | 2022年4月20日 21:09
ハマッコー さん:
吉野家が本気で作れば、親子丼もおいしいんでしょうね。わかります。
ただ、個人的には長らく牛肉と豚肉は避けていて、ここ数年は鶏肉も食わないことにしていますから、「関係ないもんね」となってしまいます ^^;)
私にとって、ファーストフードは「そば」に尽きます。
投稿: tak | 2022年4月20日 21:50