NY 図書館による「禁書」の復権
共同ニュースに "NY 図書館、禁書 4作品貸し出し 「ライ麦畑でつかまえて」も” という 4月 18日付の記事がある。ただ申し訳ないけど、私にはこの記事の意味がよくわからなかった。
記事の冒頭は、こんな文章である。
【ニューヨーク共同】全米最大の地域図書館であるニューヨーク市のニューヨーク公共図書館が、米国内の学校や図書館で禁書とされた書籍 4作品を、ネットを通じて米国のどこからでも借りられるようにする活動を始めた。今月 13日から 5月末まで。
ここで太文字にした「ネットを通じて米国のどこからでも借りられるようにする活動を始めた」という部分だが、これ、さらりと読み進めることができる人っていないんじゃなかろうか。NY 公共図書館の本を「ネットを通じて米国のどこからでも借りられる」だって?
せっかくネットを通じるのに、紙の本を借りるのか? あまりにもナンセンスで、しかもはっきり言って、まともな運用が不可能な話じゃないか?
というわけで、米国での元記事を探そうと "New York public Library banned books" というキーワードで検索したところ、Open Culture というサイトの ”The New York Public Library Provides Free Online Access to Banned Books: Catcher in the Rye, Stamped & More” という記事が見つかった。
共同ニュースの記事では、禁書になっていた 4作品のうち『ライ麦畑でつかまえて』しか紹介されていないが、こちらの記事では 4作品の表紙の画像まで紹介してある。しかるべし、しかるべし。
しかも基本的な問題として、共同ニュースでわからなかった疑問は、この記事の見出しを見るだけですぐに解決された。"Probides Free Access" というのだから、「米国のどこからでも借りられる」というのではなく、「ネットで自由にアクセスできるようにする」ってことじゃないか。
しかもこのニュースは、"SymplyE" というアプリを通じたアクセスができるとしており、それ以外の限定条件があるとは読み取れない。ということは、「米国のどこからでも」というより、世界中からアクセスできるんじゃあるまいか。もう少しきちんとした翻訳をしてもらいたいものである。
ところで、問題の 4作品というのは、以下の通り。
Speak | Laurie Halse Anderson (Square Fish / Macmillan Publishers)
King and the Dragonflies | Kacen Callender (Scholastic)
Stamped: Racism, Antiracism, and You | Jason Reynolds and Ibram X. Kendi (Little, Brown Books for Young Readers / Hachette Book Group)
The Catcher in the Rye | J.D. Salinger (Little, Brown and Company / Hachette Book Group)
"The Catcher in the Rye" 以外の 3冊は全然知らないので、ちょっと調べてみたところ、"Speak" は金原瑞人訳で『スピーク』として出版済み(参照)だが、"King and the Dragonflies" "Stamped: Racism, Antiracism, and You" の 2作品は、日本語訳の情報は見つからなかった。
ちなみに "The Catcher in the Rye" はご存知の通り、野崎孝訳(『ライ麦畑でつかまえて』)と村上春樹訳(『キャッチャー・イン・ザ・ライ』)が出ている。
ただ、私は申し訳ないけど、野崎訳の最初の 1ページの立ち読みで違和感を覚えたので、ペーパーバックの原文の方で読んでしまった。後になって村上訳も立ち読みしたが、悪いけど印象は似たようなものだった。
この小説、原文は確かに下品なスラング満載ではあるけど、日本語の翻訳よりはずっと馴染めた。この件に関しては2007年 3月 22日付け「翻訳の難しいアメリカ小説」という記事で触れている。
いずれにしてもこれら 4作品は、「下品なスラングが多い」というような理由で禁書扱いにされてしまっているらしいが、これはかなりヤバい話だとは思う。その意味でニューヨーク公共図書館の試みには拍手を送りたい。
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