「〜してくださる」と「〜していただく」の使い分け
既に何度も書いている(参照)ように、私は自分に「アスペルガー一歩手前」みたいなところがあると自覚している。アスペルガー症候群の典型的な現れというのは、「人の言うことを言葉通りにしか理解できない」ということだ。
これは半分冗談(ということは、残り半分は十分に本気)なのだが、たまたま入った店のトイレで上のような貼り紙を見たりすると、いつも「ごめんね。うんこも一緒に流しちゃうけど、ここは見逃しといてね」なんて心の中で呟く。
だってこの貼り紙の言葉を文字通りに受け取れば、排泄物をトイレットペーパーと一緒に流すわけにいかないから、取り出して別ラインで処理しなければならないじゃないか。よくまあ、こんな無茶な貼り紙を出せるものである。私には到底できないよ。
と、ここまではかなり下世話な「話のマクラ」で、そろそろ本題に入るのだが、私はラジオを聞いている時もキャスターの発する言葉に妙に引っかかったりする。最近とくに気になるのは、「〜してくださる」と「〜していただく」の使い分けがゴチャゴチャになっていることだ。
例えば「本日の時事解説のコーナーでは、経済評論家の〇〇さんが登場していただきます」なんて言い方をしょっちゅう耳にする。私はそのたびに「おいおい、この場合は『経済評論家の〇〇さん』が主語なんだから、述語は『登場してくださいます』だろうよ」と呟いてしまうのだ。
どうしても「いただきます」という述語にしたかったら、「経済評論家の〇〇さんに登場していただきます」と言うべきなのだが、最近の放送業界はこのあたりの使い分けがまったくルーズである。本当に勘弁してもらいたい。
念のために書き添えておくが、「経済評論家の〇〇さんに登場していただきます」という言い方をする場合の隠された主語は、そのラジオ局の番組関係者である。彼らが「〇〇さんに登場していただく」のであって、繰り返しになるが、「〇〇さん」はあくまでも「登場してくださる」人なのだ。
この使い分けはラジオ業界だけでなく、かなり広い範囲でごちゃごちゃになっているようで、自分の関係するイベントなどでも、司会者に「次はこの件に関して、tak さんが説明していただきます」なんて言われたりすると、その時点でイヤになって帰りたくなってしまう。
こんな風に感じるのは私だけではないようで、「していただく してくださる」のキーワードでググると、かなりのページがヒットする(参照)。おかしな言い方と気付いている人は多いのだが、いちいち訂正したりすると鬱陶しがられるのが確実なので、ぐっと堪えて心の中にしまっているのだろう。
それでも、そろそろこの辺で誰かが大きく声を上げてしっかり問題提起してくれないと、気付いている人たちにとってはストレスが溜まるばかりになってしまうよね。
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コメント
>ストレスが溜まるばかり
全くです。「尊敬語」と「謙譲語」の使い分けが理解できていない人が多すぎます。特に電波に乗せて発信する職業の人はもっと敬語の基礎を勉強してから(と言っても、小学生で習った記憶があるのですが)マイクに向かって欲しいものです。間違った敬語は聞いていると気持ちが悪くなりますし、そのようなキャスターを平気で採用し続ける局もどうかと思ってしまいます。
トイレットペーパーの件に関しては笑ってしまいました。(失礼)あれは、「便器に流さないで下さい。」ではなく、「ご使用にならないで下さい。」とすべきで、大抵の公共トイレではそのように書いてありますね。
投稿: K.N | 2022年5月 7日 03:51
K.N さん:
コメント、ありがとうございます。この問題でストレスの溜まるのが私だけではないと確認できただけで、ちょっとスッキリしました。
私は「主語の違い」という観点から論じましたが、おっしゃる通り、「尊敬語」と「謙譲語」の使い分けという問題とも言えることですね。
つまり、二重の意味で間違ってる人が多いということになります。まあ、この場合は、片方間違えばほぼ必然的にもう片方も間違いますが ^^;)
投稿: tak | 2022年5月 7日 06:42
「主語違い」は ちょっと気持ちが悪いですね。 謙譲語/尊敬語に関しては、「○○さんは おられますか?」問題とか、「植木に水をあげる。」問題とかは ググってみると 今はいちいち目くじらをたてるほうが「野暮」なようですね。
話は飛びますが、検索しているうちに 昔々に覚えさせられた呪文「あり おり はべり いまそかり」を唐突に思い出し「いまそかり」の意味をいまさらながらに知ってしまいました。( <- 知らずに暗唱してました。笑)
投稿: Sam.Y | 2022年5月 9日 17:53
Sam.Y さん:
「〜をあげる」みたいなのは、もう尊敬だの謙譲だの言わなくなってしまったようですね。
ただ、私はフツーに「植木に水をやる」と言いますけどね ^^;)
「あり おり はべり いまそかり」は、まさに魔法の呪文ですね。ことに「いまそかり」なんて、「そういうのって、あるみたいなんだよね」程度の意識のしかたでしかありませんから (^o^)
投稿: tak | 2022年5月 9日 20:17