ピアノの黒鍵から、オクターブ、コードを考える
先日、友人のカメラマンと食事しながら話していると、彼が「ピアノの鍵盤は、視覚的にどうしても納得がいかない」と言い出した。黒鍵が 2つ並びと 3つ並びの繰り返しで、写真的にどうしてもバランスが取れない」と言うのである。うむ、視覚派らしい主張だ。
「だって、『ミ』と『ファ』の間に黒鍵入れても、その音は『ファ』と同じだから、無駄になっちゃうからね」と言うと、彼は驚いたように「えっ、そうなの?」と言う。
「そうだよ。『ド』の半音上は『ドのシャープ』だけど、『ミ』の半音上は『ファ』なんだよ。『シ』の半音上も『ド』になっちゃう。だから、『ミ』と『ファ』、『シ』と『ド』の間には黒鍵入れてもしょうがないんだよね」
「えっ、そんな変な区切り方しないで、均等に上がったり下がったりすれば、黒鍵なんていらなかったのに!」
なるほど、それはもっともな疑問である。しかし実際には、そんな区切り方をするわけにいかない。
「そんなことしたら、ピアノの横幅が広くなりすぎて大変だよ。それに人間の自然な音感にそぐわなくて、コードも自然に聞こえないかも」
「コードって何?」
「和音のこと。『ドミソ』とか『ファラド』とか『ソシレファ』とかをいっぺんで鳴らすといい感じの響きになるでしょ。1オクターブを均等割にしちゃったら、不自然に響くんじゃないかなあ。実際には聞いたことないけど」
彼はこの説明に半分納得し、半分納得できないという風情だったが、これ、確かに不思議な話である。どうして人間の耳って、いわゆる和音が心地良く聞こえるようになってるんだろう。
それを考えるには、「オクターブ」を理解しなければならない。オクターブというのは、例えば「下のド」から「上のド」までのことで、「ドレミファソラシド」の 8音あるから「オクターブ」という。(8本足のタコが「オクトパス」なのと同じ語源で、暦の ”October” も同様:参照)
音楽の基本の音は、どういうわけか「ラ」ということになっていて、音名では ”A” (日本語では、イロハの「イ」)という。いわゆる「ド」は、そこから数えて 3番目だから "C" で、日本語では「ハ」だから、これを主音とすると ”C major(ハ長調)" とか "C minor (ハ短調)" なんてことになる。
そして、ピアノの真ん中辺りの ”A” の音の周波数は 440Hz で、それより 1オクターブ下は 220Hz、1オクターブ上は 880Hz ということになっている。これ、ギターのチューニングでも基本の音になっているほど大切なもののようなのだ。
1オクターブ上がるごとに周波数が倍になって、どんなに長く延ばしてもズレないから、人間の耳には「オクターブ違いの同じ音」に聞こえるのだろう。そしてその間をうまい具合に区切ったので、「ドミソ」とか「ファラド」もいい具合に響くのだという単純な理解で、そんなには外れていないと思う。
ただ、現在の音階に辿り着くまではいろいろ微妙な変化があったようで、「平均律」とかいう妙に数学的すぎる区切り方を経て今の心地良い音階になったようだ。
音楽というのも、なかなか大変なことのようなのである。
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コメント
小学生のときでしたかね。
「ドレミの歌」を、ハニホヘトイロハで歌った経験あります。
〽︎ハ〜はドーナツのハ〜
ニ〜はレモンのニ〜
大人には、かなりの頭の体操になりそう!
投稿: 乙痴庵 | 2022年5月18日 18:01
乙痴庵 さん:
まさに、頭の体操ですね。
投稿: tak | 2022年5月18日 21:21
昔、デルボ著モダンジャズスクール(上・下巻)という本で「ギリシア旋法」について触れているのを興味深く読みました。その頃はネットなんて無かったのですが、今ググってみたら、もっと詳しく説明しているサイトがありました。もしかしてtakさんなら興味があるかもと思い、URLを貼り付けて置きましたので、参考になれば幸いです。
https://flip-4.com/894
投稿: K.N | 2022年5月19日 00:44
K.N さん:
情報、ありがとうございます。
いろいろな旋法があるとは知っていましたが、こんなにもたくさんあるとは驚きました。
言ってしまえば、どの音でも主音になり得るのですね。
投稿: tak | 2022年5月19日 10:53
旋法については さっぱり理解できませんでしたが(音痴なので テヘヘ)
純正律と平均律については次のように理解しています。
和音とは周波数比が整数比になるもの。
オクターブとは周波数が2倍になるもの。
1オクターブを等比で12に分割したのが平均律で、例えば ドミソは 1:1.2599:1.4988 [1:2^(4/12):2^(7/12)]。
で この半端な数字がいやで 1:1.25:1.5(4:5:6)にするのが純正律。 純正律が良さそうに感じるけど 平均律ならば レ# ソラ# でも ミソ# シでも同じ周波数比を保てるけど 純正律ではうまくいかないらしいです。(あやふや)
こんなチューニング用品もあるようですね。
https://www.soundhouse.co.jp/contents/staff-blog/index?post=499
(楽器屋さんの CMみたいですが、、)
投稿: Sam.Y | 2022年5月21日 18:32
Sam.Y さん:
その辺りの「曰く言いがたいところ」をなんとか帳尻合わせてしまうのが、調律師の腕前ということのようです。
かなり「人間的」な技術ですよね (^o^)
投稿: tak | 2022年5月21日 20:41