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2022年9月 8日

「A4 サイズの紙」を巡る冒険 その 1

Gigazine に「A4 サイズの紙が広く使われているのには数学的に美しい理由がある」という記事がある。元記事は "Why A4? – The Mathematical Beauty of Paper Size" で、英語で書かれているが、筆者はドイツ人のようだ。

220908

この「ドイツ人が書いた英語の記事」という点にちょっと興味が湧いてググってみたところ、「A判は 19世紀末ドイツの物理学者オズワルドによって提案されたドイツの規格」というのが見つかった(参照)。同様の記述は、これのみならずあちこちに見当たるので、つい信じそうになっちゃったじゃないか。

ただ、かなり危ういところでまっとうな疑問が湧く。「オズワルド」って、英語圏の人名のカタカナ表記であり、ドイツ人の名前の表記としては不自然じゃないか? この辛うじて湧いた疑問がきっかけで、A4 サイズに関する「ガセネタ」を信じずに済むことになった。

深くググってみると、"yasuokaの日記: A判の起源"(2008年 9月 16日付)というスラドの記事が見つかり、 A サイズの起源について「フランスで 18世紀末から使われてきた紙のサイズ」とあり、話の具体性から言って、「オズワルド(あるいは「オストワルト」)起源説」よりずっと信憑性がある。

記事にはさらに、"「物理学者オズワルド」とは誰なのか"(2016年 8月 22日付)という続編まである。Friedrich Wilhelm Ostwald という知る人ぞ知るドイツ人は化学者であり、物理学者ではないというのだ。確かに、この人のことを Wikipedia で調べても、A4 サイズに関する記述は全くない(参照)。

要するに、この人と A サイズを関連付けて語るのは、そもそもからして訳のわからない話なのだ。念のため、英語版 Wikipedia の ”Paper size" という項目も調べてみたが、Oswald とか Ostwald なんて名前は見当たらない。

今回のネタの元記事がドイツ人によって書かれたのは、初めは「A4 サイズの発祥は、我が祖国だからね」という誇りに発するのかと思ったが、実はそうではなく「ほんのたまたま」のようなのだ。そして当然のことに、そこにはオズワルド云々という記述も全然ない。

というわけで、「A4 サイズはドイツ人物理学者のオズワルドが考案した」というのは、日本ではあちこちのサイトであまりにももっともらしく語られているが、「実はとんでもないガセネタ」であると結論づけていいだろう。ここまで来て、ようやく気分が吹っ切れて今回のネタの核心に入ることができる。

A4 サイズの寸法は、長辺が 297mm、短辺が 210mm。これは絶妙なサイズ設定で、半分に折りたたむと A5 サイズとなり、逆に倍にすると A3 サイズになる。「縦横比が同じ」ということは、一定のサイズ比で大きくも小さくもコピーできるということで、絶妙なサイズ規格なのである。

これが国際サイズとして採用されているというのは、本当にありがたいことだ。米国標準の「レターサイズ」というのは、こうした点で妙に不便だからね。

これでは「核心」というには短すぎるので、続きは明日書くことにしたい。

【追記】

A判は 19世紀末ドイツの物理学者オズワルドによって提案されたドイツの規格」でググると、ほぼ同じフレーズが 9,000件近く検索される。ガセネタが何の疑いもなくコピペされ続けた結果だろう。インターネット時代の「俗説」はこうして作られる。かなりコワい話で、私も気をつけようと思った次第である。

 

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コメント

私の古い日記を見つけて下さって、ありがとうございます。実は最近「物理学者オズワルドとエントロピー経済学」 https://srad.jp/~yasuoka/journal/656481/ でちょっとだけ情報を更新できたので、またよければ、お読みくださると幸いです。

投稿: 安岡孝一 | 2022年9月17日 00:14

安岡孝一 様:

ご丁寧にコメントをくださいまして、ありがとうございます。

ご紹介の記事を読ませていただきました。またまた、謎が見つかってしまいましたね。どうなんてるんだか、そのようにカタカナ表記した当人に聞くほかないですね。

投稿: tak | 2022年9月17日 09:40

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