「手話」を巡る冒険
今日の TBS ラジオ「荻上チキ・セッション」の特集は、"基礎から学ぶ手話〜「ろうあ者」「手話コミュニケーション」について言語発達と手話研究が専門の研究者と共に考える" というものだった。「専門の研究者」というのは、松岡和美さんという慶応大学経済学部の教授の方である。
これは Radiko タイムフリーで、こちら をクリックすれば 1週間以内なら聞くことができる。この特集が始まるのは、番組開始から 1時間 6分あたりのところからだが、多くの人たちには初耳だろうと思われる興味深い話が聞けるので、かなりオススメだ。
私が初めて知ったのは、一口に「日本語の手話」と言っても、「日本手話」と「日本語対応手話」というのがあるということだ。「日本手話」というのは、ろうあ者の方々がネイティブな形で身に付けたもので、普通の日本語とは語順が違うなど、かなり文法的な違いがある。
さらに、手の動きだけでなく表情や頭の動きなど、総合的なビジュアル表現となるので、時には「声」で順々に表現するしかない音声言語よりも効率的に大量の情報を伝えることができるらしい。
一方「日本語対応手話」というのは、音で話された日本語を同時通訳的に手話にするもので、ネイティブな「日本手話」とは語順も違ってしまうし、伝えきれない要素がかなり取り残されるので、途中から聞こえなくなった人にはわかっても、生まれつき聞こえない人には理解しにくいという。
そんなわけで、「東日本大震災」の時や、オリンピックの選手宣誓の時に「日本語対応手話」で翻訳されたものは、なかなか伝わりにくかったようだ。手話に通訳するのは「よかれ」と思ってやるわけだが、それが両者にとって「もやもや」の元になってしまうこともあるというのである。
私はこの放送を聞いて、いっぺんに世界が広がったような気がした。これまで身に付けた「音声言語」を元にした言葉以外にも、かなり大きな広がりのある別の「言語世界」があるというのは、かなりの驚きである。
それから番組開始早々に松岡さんが触れていたことだが、生まれたばかりの赤ちゃんは、どの言語の音もきちんと聞き分けられることが証明されているらしい。米国で生まれた英語の家庭の赤ちゃんでも、ヒンディー語独特の音がちゃんと聞き分けられるというのだ。
ところが、その能力が成長につれて失われ、だんだん聞き分けられなくなる。生まれた時にはたくさんの能力をもっているが、だんだんと「要るもの」だけ残るようになってしまうというのだ。
日本人は英語の "L" と "R" の音が区別できず同じ「ラリルレロ」になってしまうというのも、これに当てはまるのだろう。私は中学校時代にかなり英語を聞き込んで違いを身に付けたのだが、これって「新規獲得能力」じゃなく、生まれつき持っていた能力を取り戻しただけということのようなのである。
いやはや、赤ん坊は馬鹿にしたもんじゃない。文字通り「無限の可能性」を持っているのだから、それを大人の浅知恵で潰しちゃいけないってことだ。
| 固定リンク
「言葉」カテゴリの記事
- 日本人の英語力って、下から数える方が圧倒的に早い(2025.02.07)
- 「正念場」という言葉の深い意味(2024.12.30)
- 「豚殺し/ロマンス詐偽」ー 中身は同じというお話(2024.12.26)
- 和菓子、薬、滑舌訓練等々 ・・・ 「外郎」を巡る冒険(2024.12.11)
コメント
ご存知かもしれませんが「ニカラグア手話」というものがあります。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%82%AB%E3%83%A9%E3%82%B0%E3%82%A2%E6%89%8B%E8%A9%B1
史上初めて発生から発達が専門家に記録された言語で、現在も発展中だとのこと。おそらく初期の「日本手話」もこのように生まれたのだろうなと思う次第です。
投稿: らむね | 2022年12月16日 01:25
らむね さん:
貴重な情報、ありがとうございます。
これは言語学的な視点からもムチャクチャ興味深いことですね。
投稿: tak | 2022年12月16日 20:30