「頭で考えない」ことと「スパイト(いじわる)行動」
一昨年 10月公開の古い記事だが、【"日本人は特にいじわる” とデータが証明? 行動経済学が開かす「スパイト行動」】というのがずっと気になっていた。何かと関連付けて語りたいと思っていたのが、昨日の「男の育休」という問題にちょっと共通項を感じてしまったので、こじつけてみたい。
リンク先の記事では、「スパイト行動」というのは ”自分が損をしてでも相手を出し抜く” ことと説明されている。ちなみに英単語の "spite" というのは「(ねたみなどによる、ささいな)悪意、意地悪」という意味だが、受験生には "in spite of 〜" (〜にも関わらず)という熟語の方がお馴染みだろう。
記事では「スパイト行動」を説明するためにちょっとしたペア・ゲームを紹介している。ルールを手短に言えば、2人とも手元に 10ドル所持しており、そこから任意の金額(0〜10ドル)のお金を出し合う。すると「出した合計金額×1.5」分のお金を、自分も相手も等しく受け取ることができる。
このルールに従えば、最終的な金額を増やすために最も有効な戦略は、相手の出す金額にかかわらず、自分は 10ドル出すというものだ。例で言えば、自分も相手も 10ドルずつ出せば、2人とも それぞれ(10ドル+10ドル)×1.5 の 30ドルを受け取ることができる。
もし、自分が 0ドル、相手が 10ドル出せば、2人とも 10ドル×1.5の 15ドルを受け取ることができ、自分の手元のお金は元々の所持金との合計で 25ドル、そして相手は 15ドルとなる。
1ドルも出さずに所持金が相手を上回る 25ドルになるのは、一見するとかなりの得のように思えるが、互いに 10ドル出し合った場合に 30ドルの手持ちになるのと比べれば 5ドル少ない。従って、よく考えれば賢明な選択とは言えない。
ところが筑波大学の研究チームが 1991年に行った実験では、“あえて 0~9ドルを選択する” という被験者が少なからずいた。自分の所持金を増やすという「絶対的な得」よりも、とにかく相手に損をさせてその所持金を上回ることを優先するという「相対的な得」を選ぶというわけだ。
研究チームは、相手を気にせずマックスのお金を出して多くの金額を得るか、相手を出し抜くために出さないこと(「スパイト行動 = 意地悪行動」)を選ぶかの間で心が揺れ動くことを、「スパイト・ディレンマ」と名づけたという。つまり「意地悪ジレンマ」だよね。
そしておもしろい(?)ことに、日本人の「スパイト行動」を選択する比率は、他のどの国の被験者と比較しても段違いに高かったという。少なからぬ日本人は、「みみっちい意地悪をして結果的に得る絶対金額が少なくなってさえも、相手にまでいい思いをさせるよりはずっとマシ」と考えたがるようなのだ。
これって、「男の産休」を否定的に論じるのと似たメンタリティだと思ってしまう。男の産休を肯定的に捉えてこの制度の活用を促進すれば全体の利益になるのはわかっていても、同じ部署の誰かがそれを取得すると、「自分が損した」ように感じてしまう人が少なくないというようなものじゃなかろうか。
「男の産休」は要するに、自分も活用すればいいのである。あるいは自分にその条件がない場合でも、周囲が取得するのを積極的に認めるべきだ。それによって社会全体としての少子化傾向が緩和されれば、回り回って自分の利益につながるのだから。
それでも現実に男性同僚が堂々と産休を取得すると、「あいつ、男のくせに・・・」なんて思い、職場で嫌がらせなどの「いじめ」をしたがるやつがいる。上の画像にある「モグラ叩き」みたいな反応で、ただ単に目立ったヤツを「腹いせ」的に叩きたいだけだ。
昨日の記事で言えば、何と上司が、産休を取った部下を未経験の部署に強引に移動させてしまっている。これって、完全にパワハラだよね。
こうした「スパイト(いじわる)行動」は、相手の不利にはなっても、それが決して自分の得になるというわけじゃなく、結果としては全体が萎縮して非活性化してしまうだけなんだということを、しっかりと確認しておかなければならない。ただそれには、ちゃんと「頭を使って」考えることが必要だ。
胸の中のもやもやが先に立って頭で考えることを拒否してしまうと、「スパイト行動」に走りやすい。
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コメント
「となりの人よりちょっとでも幸せになる」と言うメンタリティでしょうか。
幸せの価値って、なんなんでしょうねぇ。
隣人より高価な車?ネックレスや指輪の価値?
アタシャ今日の昼飯どうしよう!弁当屋さんよりもスーパーマーケットの方が安い!
もう、他人を思いやる(うらやましがる)メンタル皆無です。
フグでもなんでも召し上がっていただいて結構ですが、口に入るものを求めて財布と相談しなきゃならない生活は、これからの下層民に必要なスキルですかね。
投稿: 乙痴庵 | 2023年1月15日 19:52
乙痴庵 さん:
>「となりの人よりちょっとでも幸せになる」と言うメンタリティでしょうか。
う〜ん、というより「隣の人よりちょっとでも損しない」ってことなのかも知れませんね。
>幸せの価値って、なんなんでしょうねぇ。
他人と比較してマイナスの少ない暮らしなら OK ってことだとしたら、はっきり言って、生きてるのが馬鹿馬鹿しいですね ^^;)
>もう、他人を思いやる(うらやましがる)メンタル皆無です。
あはは (^o^) 確かに、「思いやる」と「うらやましがる」って、浅いところでは共通したメンタリティなのかもしれませんね。
投稿: tak | 2023年1月15日 20:22