トイレの注意書きを、山形弁と庄内弁で
tk(てつや こむろ)さんという方(あの小室哲哉とは別人だよね)が、「山形のトイレにはこんな看板があります 🚹 意味分かります?」という tweet を挙げている(参照)。「看板」(?)の文字は「便所の中さおがすげなものは投げねでけろな」というものだ。
これ、山形県の中でも内陸地方の「山形弁」と言われるもので、日本海に面した庄内の、難解さでは「鹿児島弁」に劣らない「庄内弁」に比べれば、たやすいものだ。「便器の中におかしなものは捨てないでくださいね」ってな意味である。
「おがすげな」というのは漢字混じりにすると「おかし気な」ということになる。もとの tweet にもコメントさせていただいたが、「怪しげ」の元が「あやし気」であると認識できれば、それと共通した語法だとわかるだろう。
それから、山形弁では「捨てる」を「投げる」というようなのである。「放る」と共通した感覚なのだと思う。小学校 3〜4年の時の担任が山形出身で、「そんなもの捨ててきなさい」を「投げてきなさい」と言うものだから、違和感たっぷりだったのを今でも覚えている。
ちなみにこの tweet には庄内弁話者の「庄内弁ならこんな感じになるよ」というようなコメントが 2つ付いていて、こんな感じだ。
- gandhi 2059 さん: 「びんじょさへんだものうだんなよ」
(「便所」の発音が庄内では「びんじょ」に近くなる) - yomiko さん: 「便器のなっがさおがしげだもの入れねでくれのぉ〜」
うぅむ、両方とも私の庄内弁感覚からはちょっとズレる。というのは、私が庄内で暮らしていたのは 1970年までのことで、つまり私の中にあるのは半世紀以上前の庄内弁なのである。そんなわけで、たまに帰郷すると、「おめさんみでだむがすのこどばさべる人だの、今だばだぁもいねでば!」なんて言われてしまう。
これ、直訳すると「お前さんみたいな昔の言葉喋る人なんて、今は誰もいないってば」てなことになる。まるで「生きた化石」扱いだ。そんなわけだから、今回の表示も、私としては「びんじょのなっがさおがすげだものうだらねでくっちゃの」ぐらいだとしっくりくるのだよね。
お気付きと思うが、庄内弁では「中」という言葉が「なが」と訛るのみならず、「なっが」という発音になる。同様に「下」は「すった」、ついでに「ケツ」は「ケッツ」である。というわけで「サルのケツは赤いのだ」が「サルのケッツだばあっげなだ」になる。
問題は山形弁では「投げる」になる「捨てる」を、庄内弁では「うだる」と言うことだ。これ、「茹だる」という意味ではない。これも元の tweet にコメントしたのだが、「うっちゃる(うちやる)」の訛りなのだと思う。
三省堂の『例解古語辞典』第三版には、次のようにある。
うち・や・る【うち遣る】(動四8)ほうっておく。
というわけで、「うだる」は「ほうっておく」、つまり「捨てる」ってことになる。庄内弁は現代の標準語の訛りというより、古語の訛りが多いのだよね。
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コメント
話がちょっと逸れますが、下の動画は酒田に嫁入りしたフランス人女性の動画です。この回では述べてませんが酒田弁に挑戦中だそうです。
https://www.youtube.com/watch?v=nFzVFllLz9A
この女性の酒田弁聞いてみたいですね。
投稿: ハマッコー | 2023年5月30日 00:10
ハマッコー さん:
へえ、酒田におフランスの方が住んでるんですね! 昔は酒田に来る外国人はロシア人(ロシア貿易があったので)ぐらいのものでしたが。
ちなみに「ロシア人」は庄内弁で「ろしゃずん」です (^o^)
クルーズ船で来られたフランス人たちは、かなり知的な人たちという印象ですね。ここまで日本的自然を理解・感動できる西洋人は、そう多くないと思います。
投稿: tak | 2023年5月30日 09:18