"LGBT" と「クロス・ジェンダー・パフォーマンス」の差
私はかなり前から ”LGBT” の問題について書いており、今年になってからだけでも 7本も書いている(参照)。ただ、これとビミョーにゴッチャになりそうなテーマに「クロス・ジェンダー(あるいは X ジェンダー)」というのがある。
この関連で私は、「クロス・ジェンダー・パフォーマンス(あるいは XGP)」というテーマで過去に何本か書いている。きっかけは 2008年 12月 13日に書いた ”五木ひろし版 「テネシーワルツ」 のチョンボ ” という記事だった。内容はここでは説明しきれないので、リンク先に飛んで読んでいただきたい。
XGP というのは、要するに日本の「艶歌」とか「ムード歌謡」とか呼ばれるジャンルによくある「男が女の立場で、女言葉で歌う」(逆パターンもあるが)みたいなやつだ。これ、私の知る限りでは欧米の歌の世界ではほとんどない。もしこんなことしたら、「趣味の悪過ぎるジョーク」扱いにされるだろう。
そしてふと気付けば、日本維新の会公認で立候補して当選し、今や国会議員にまで上り詰めてしまった、かの中条きよしという人の歌にも、この「クロス・ジェンダー・パフォーマンス」というのがやたら多いのだ。最大のヒット曲であるらしい「うそ」という歌はその代表格である。何しろこんな歌詞だ。
折れた煙草の吸いがらで
あなたの嘘がわかるのよ
誰かいい女(ひと)出来たのね 出来たのね
国際標準(と言っていいかわからないが)的には、男がこんな歌をマジで歌ったらゲイと思われるだろうが、どうしてどうして、近頃の中条きよし先生本人は、どこから見ても「オッサンそのもの」である。
で、こうしたタイプの「ムード歌謡」をいかにも好みそうな、少なからぬ自民党の保守的なオッサン連中は、「クロス・ジェンダー・パフォーマンス」に関しては「当たり前」と思っていても、"LGBT" にはかなり偏見があるみたいなのだ。このあたり、私にはよくわからんことなのである。
というのは、私は「クロス・ジェンダー・パフォーマンス」は「気持ち悪いじゃん!」と思ってしまうが、"LGBT" の人たちとはごくフツーに付き合えるのだ。
どうやら、「クロス・ジェンダー・パフォーマンス」と "LGBT" というのは、表面的には共通点があるように見えても、その本質は全然別のようなのである。というのは、「クロス・ジェンダー・パフォーマンス」で歌われる「女」というのは、「男にとってとても都合のいい存在」のように思えるのである。
もっとはっきり言えば、女という存在を、一旦オッサンにとって都合のいい存在にまで落とし込み、その歪んだプロセスを通して「かなりお水っぽい形での美化」を実現させているのである。これでは "LGBT" と重ねて論ずることなんて、とてもできない。
そもそも突き詰めて考えれば、日本文化は本来 ”LGBT” 的な側面を色濃く宿して発展してきた。こちら とか こちら を参照していただければ、さほど抵抗なく理解できるだろうと思う。
ところが前世紀頃から「クロス・ジェンダー・パフォーマンス」的な価値感がオッサンたちに支持されてしまうという妙な変形を遂げたために、おかしくなってしまったようなのである。「男が男にとって都合のいい女の立場で歌う」ことは OK でも、”LGBT” は NG ということになってしまったのだ。
ちなみに 2021年 3月 23日付の "『夜明けの歌』と、クロス・ジェンダー・パフォーマンス" という記事でも触れたように、美川憲一が『夜明けの歌』を「夜明けの歌よ アタシの心に・・・」と歌うのは、XGP ではなく、むしろ「自然なこと」と思えて気持ち悪くもなんともない。
ということなので、このあたりは、どうぞ
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コメント
〽いいえワタシは、さそり座の女~
とか最高です!
投稿: らむね | 2023年5月 4日 08:15
らむね さん:
いいですねえ! (^o^)
投稿: tak | 2023年5月 4日 11:07
性別非公開の歌手なんて別に珍しくもないですし、「歌をうたうときには肉体的な性別・性自認・性的指向をカミングアウトせねばならぬ」なんて主張があったとしたら「悪趣味すぎるジョーク」なんてレベルでは済まないと思いますけどね。今どきの差別的なリベラルの人ならそのくらいは平気で言うのかもしれませんが。
それに、中条某がどうだかは知りませんが、「オッサンそのもの」のゲイくらいいくらでもどこにでもいると思いますよ。普通、親しくもない他人の性自認をいちいち根掘り葉掘り聞くような無礼はしないし、仮にゲイだったらなんだという話なだけで。
投稿: 柘榴 | 2023年5月 4日 22:37
柘榴 さん:
>性別非公開の歌手なんて別に珍しくもないですし、
「性別非公開の歌手」って、どんな人たちでしょう? よくわかりません。さらに言えば、それと対になると思われる「性別公開の歌手」というのも、よく考えるとわかりません。
>「歌をうたうときには肉体的な性別・性自認・性的指向をカミングアウトせねばならぬ」なんて主張があったとしたら「悪趣味すぎるジョーク」なんてレベルでは済まないと思いますけどね。今どきの差別的なリベラルの人ならそのくらいは平気で言うのかもしれませんが。
誰もそんなこと言ってませんよ ^^;)
>中条某がどうだかは知りませんが、「オッサンそのもの」のゲイくらいいくらでもどこにでもいると思いますよ。
この記事で言ってるのは、「オッサンそのもの」のゲイがいるとかいないとかいう問題じゃないので、こう来るとは思いませんでした。
(オッサンそのもののゲイがいるのは、おっしゃる通りですけど、ここではそんなことは問題としていませんので、よろしく)
>普通、親しくもない他人の性自認をいちいち根掘り葉掘り聞くような無礼はしないし、仮にゲイだったらなんだという話なだけで。
そりゃ、今さら言うまでもない話です。というわけで、悪いけど、結局何をおっしゃりたいのか、よくわかりません。
投稿: tak | 2023年5月 4日 23:30